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第94話

「んで、聞きたいことが沢山あるんだが……」 「スリーサイズはねぇ 」 「そうじゃなくて。他に言ってなかったことはないか」  飽くまで茶化そうとする態度と、今日一日の激動にうんざりして額を押さえた。 「えー  と」  この歯切れの悪さは何かあるらしい。  不機嫌に眉を上げてやると、観念したのか計都は左手に持ったフォークを振って見せた。 「俺、左利き」  もう溜め息すら出なかった。 「そうか」 「あと、  あとは、すごく、テンチョの傍にいたかった」 「それは知ってる」 「ふぇ 」  えと じゃあ  と言葉を探す計都を手招いて膝の上に座らせる。 「それから?」 「テンチョが大好き」  ほにゃほにゃとした笑顔は嬉しいが、呼び方が気に入らない。 「店長はもうなしかな」 「テンチョが言ったんじゃん」 「悪かったって」 「じゃあ 」  またキョウジ?と尋ねるように呼ばれるのかと身構えていたが、 「キョウちゃん!」   そう溌溂と呼ばれて目を瞬いた。 「えらく可愛い呼び方になったな」  もじもじとした後、計都はじぃっとこちらを見てくる。 「だって   同じ呼ばれ方、いやかなって」 「何で知ってんだよ」 「  えへへ」  それでごまかせると思っているのだから、甘い。 「どうせオレの反応見てたんだろ」 「えええっ」  跳ねて逃げ出そうとした体をすっぽりと腕の中に収めて、耳にキスをしてやれば、びくりとした反応と赤い項が目に入った。  反応を見てイイか悪いかを判断させるなら、オレ自身腕は悪くない方だとは思っているが…… 「  え、と。ベッド  行く?」  ぽつぽつ言う姿は、人が寝ている最中に襲ってきた奴と同一人物だとは思えない。  赤くなって俯いてしまった計都の初々しさが新鮮で、もう少しからかいたくなった。 「いや、無理だな」 「なんで!?」 「この家にローションがない」  べそをかきそうになった計都の耳に、もう一度唇を寄せた。

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