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第7話 合宿の夜【草薙】
夏休みに入り、いよいよ、コンクールのための練習も大詰めを迎えた。
顧問の音楽教師が交渉してくれて、青陵高校からごく近いビジネス旅館に格安で泊めてもらえることになり、加えて、特別に、夜間も音楽室が使えることになったため、ブラスバンド部は、練習の仕上げに、二泊三日の集中合宿を張ることになった。
初日の午後、草薙は、祖父の法事のため、いったん合宿を抜け出した。
高校生にとっては、それほど面白いとは言えない親戚づきあいをこなし、旅館に戻って来た彼は、へとへとに疲れ切っていた。猛暑の中、朝から、長時間にわたる練習。親戚の家と旅館の往復の移動。他の生徒たちは、とっくに入浴を終えて自由時間を過ごしているので、彼はゆっくり一人で大浴場に入ることができた。
「はぁ・・・。今日はしんどかった・・・。明日も明後日も練習なのに、こんなんで、最後まで持つかなぁ・・・。」と独りごち、ガシガシとシャンプーを泡立てて頭を洗っていたら、大浴場の出入り口が、カラカラと音を立てた。誰かが入ってきたようだ。
(こんな遅い時間に、誰だろう?)と思いつつ、草薙は、後から入ってきた人が、自分とそれほど遠くない洗い場で、シャワーを出し始めた音を聞いた。
頭をゆすぎ終わり、音がする方を見ると、シャワーで頭からお湯をかぶっているのは、柏木だった。
仰向けで目を閉じ、薄く口を開けて、気持ち良さそうにお湯を浴びている表情には、男の色気すら滲み出ていた。頭上で手を動かすたびに、普段は服に隠されている、背中や胸の筋肉が盛り上がって動く。
ウグッ。草薙は息を呑んだ。
(これ以上、圭先輩のハダカをマトモに見たら、危険だ!)慌てて目を逸らし、一生懸命、手元のスポンジをニギニギして、ボディソープを泡立てた。
「おう、草薙。お前も今風呂か」頭を洗い終えた柏木の方から、声をかけてきた。
驚いた草薙は、反射的に、柏木を見た。頭や顔から、まだ雫を垂らしながら、白い歯を見せて微笑んでいる。
再び、ウグッ。
(水も滴るいいオトコかよっ!)と、心の中で、一人ツッコミを入れながら、草薙は、
「家の用事で、午後出掛けてたんで、この時間になっちゃいました。圭先輩も、遅くまでお疲れ様っす。練習すか?」と、意識しまくった挙句、妙に男らしい口調で返事をした。
「あー、法事だっけ? 俺は、顧問と作戦会議してたよ。先生は、奥さんが怖いから、泊まらないで自宅に帰るってさ。高校生の男子だけを野放しで泊めといて、いいのかねぇ」柏木はおかしそうに笑いながら、手を差し出してきた。
「自分じゃ、届かないんじゃないか? 流してやるよ、背中。貸してみな」
柏木が手を差し伸べているのが、自分のボディスポンジだということに気付くと、
「あ! いえ、そんな! ていうか、僕が、先輩の背中、お流しします! 気が利かなくてすいません!」草薙は、慌てて口走った。
「そんな気ぃ遣うなよ。・・・でもまぁ、お互い様ってことなら。お願いしようかな」と、柏木は、自分のタオルを草薙に手渡し、背中を向けてきた。
「し、失礼しまっす!」完全にテンションがおかしくなった草薙は、ヤクザの若い衆みたいな掛け声を掛けて、柏木の背中ににじりよった。肩甲骨周りや、肩や二の腕には、しっかり筋肉が付いている。
(うっ・・・。圭先輩って、着瘦せするんだ! 想像以上に、いいカラダだぁ・・・。男らしくてカッコいい・・・。色っぽ過ぎるだろ!!)胸をドキドキさせながら、なんとか背中を洗い終えると、柏木が振り返り、「じゃ、次はお前な」と、また手を出してきた。
「う・・・、はぁ、す、すいません・・・。」草薙は、背中を向けながら、観念しながら自分のスポンジを柏木に手渡した。
気持ちを張り詰めていたつもりだったが、それでも、時折、自分の肌を掠める柏木の指を感じると、草薙は、ぴくっと反応した。柏木は、それを見て、「草薙、お前、すげぇ感じやすいんだな」と、おかしそうに笑った。
うまい切り返しも思いつかず、もはや草薙は、耳を赤くして俯くしかない。
「さー、風呂につかるかぁ」柏木は、引き締まった尻を見せながら湯舟に向かう。
(お、同じお湯に一緒に浸かるだなんて! 蛇の生殺しじゃないか!)草薙は、やや前屈みに自分の身体を隠しつつ、そうっと背中を向けて、柏木から少し離れて湯舟に入った。
「はー。たまには、でかい湯舟に入るのもいいもんだなぁー」柏木は、逞しい両腕を湯舟の縁に掛け、胸を開いて、気持ち良さそうに寛いでいる。
「そ、そうっすね」草薙は、柏木を直視できず、なんとなく背中を向けて三角座りしていた。
数分後、柏木はザバっと音を立てて湯舟から立ち上がり、「じゃ、お先」と、出て行った。
(圭先輩が脱衣所から出て行ったら、僕も上がろう。着替えシーンなんて、エロ過ぎて無理無理! それに、僕のこんなひょひょろなカラダなんか、これ以上見せられないよ!)
手短なドライヤー音が終わり、脱衣所のドアがパタンと閉まるのを確認し、草薙は湯舟から立ち上がった・・・・が、次の瞬間、のぼせと疲労で貧血を起こした草薙は、意識を失い、浴室の床に倒れた。
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