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第8話 合宿の夜【草薙/柏木】

 意識を回復した草薙が最初に見たものは、客室の天井と、上から心配そうに覗き込んでいる同級生たちの顔だった。  「あ~、気が付いたか。(すみれ)。よかった~。心配したんだぞ! どっか、ぶつけたりしてないか? 痛いところないか?」一番の親友、竹下が、ほっとしたように微笑んだ。  「・・・あの、僕、確か、お風呂で気持ち悪くなったような気がするんだけど」  「そうだよ!! お前、風呂で貧血起こして倒れたんだぞ! 圭先輩がここまで連れて来てくれたんだからな。あとでちゃんとお礼言っとけよ」  「ええっ・・・! 僕、その・・・、も、もしかして、ハダカだった?!」  竹下は、呆れたように草薙を眺め、ハアと溜息をついて、教えてくれた。 「お前、湯舟から出たとこで、浴室のタイルの上に倒れてたらしいぞ。たまたま圭先輩が、近くにいたから、頭とか身体拭いて、パンツ履かせて、背負って、ここまで連れて来てくれたんだよ。そんで、俺たちが、脱衣所のTシャツとハーフパンツを回収して、お前に着せて、布団に寝かした」  草薙は、目を丸くし、顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉した。恥ずかしさに耐え切れず、両手で顔を隠した。  「恥ずかしがってる場合じゃないだろ! 頭でも打ってたら大変なことになってたんだぞ! 圭先輩がすぐに助けてくれなかったら、マッパで浴室で寝てて、風邪とか引いてたかもしれないし!」  至極真っ当な竹下の意見は、今の草薙の耳には届かなかった。  (よりによって、圭先輩に、全てを見られてしまったなんて・・・。恥ずかしすぎて、死にたい・・・。)  翌朝、朝食会場に向かう途中、柏木の後ろ姿を見かけた。遅かれ早かれ、必ず御礼は言うべきだし、言うなら、少しでも早い方がいい。思い切って、草薙は、「圭先輩」と、声をかけた。  柏木が振り向いたので、「あの・・・、昨日は、助けてくださって、ありがとうございました」と、急いで言って頭を下げると、 「おぉ。身体は大丈夫か? 怪我とか、どっか調子悪いところはないか?」と、気遣われた。  「はい、特に、怪我とかはないです。あの・・・、色々、ご迷惑をおかけして、すみませんでした」  見事な肉体を持つ片想い中の相手に、貧相な全裸を見られ、パンツを履かされ、パンツ一枚の姿のまま背負われて運ばれる、という、意識があったら、とても耐えられない羞恥プレイを思い出し、草薙は赤面した。 ***  身体の両脇に真っ直ぐ下ろした両手をぎゅっと握りしめ、真っ赤な顔で俯く草薙を目にして、 (かっ、 かーーーわーーーいーーーいーーー!!!!) 柏木は内心、萌え滾ったが、どうにか、良い先輩の顔を装って、 「昨日は、俺が近くに居たから、大事にならなくて良かったよ。男同士なんだし、あんま気にすんな。それより、今日も明日も暑そうだから、無理するなよ?」と、優しい言葉をかけた。  柏木にとっては、胸躍る出来事だった。  顧問との打合せを終えて、大浴場に入ったとき、一心に頭をゴシゴシしているのが草薙だということに、彼はすぐに気付いた。  わざわざ隣に並ぶのは図々しすぎるが、あんまり遠くに離れるのも逆に変かと思い、二つほど離れた場所に座り、シャワー中でこちらに気付いていない草薙の、長くほっそりした手足や、薄い胴を横目で眺めた。  背中を流した時は、悪戯心でたまに軽く指先で触れると、あまりに草薙が敏感に反応するので、真剣に愛撫したら一体どんな表情を見せるんだろうと、柏木は劣情を催した。  彼が脱衣所を出た直後、浴室のほうから、ドーン、と、鈍く大きな音が聞こえた。急いで取って返すと、草薙が、タイルの床の上に、四肢をだらりと投げ出して倒れていた。呼吸や脈拍に異常がなく、目立った外傷もないことを確認するまでは、気が気ではなかったが、どうやら普通の貧血らしいことがすぐに分かり、ホッとした。  そうっとバスタオルで包み、横抱きで脱衣所に運び、丁寧に身体や頭を拭いた。その頃には、顔色も自然に戻り、柏木は、ようやく少し安心し、改めて、しなやかな若い鹿のような草薙の裸体を眺めた。  (へぇ・・・。胸や腹は、薄いとは言え、思ってたよりは筋肉ついてる。一応、腹筋割れそうじゃん。肌のすべすべ感は、同年代の女子が嫉妬しそうなレベルだなぁ。  乳首が小さくて色が薄くて可愛い・・・。まだ、キスされたことなんか、ないんだろうなぁ・・・。ご子息の生育状況は、うん、まぁ、年相応ってとこか。  髭も薄いし、体毛少ないのに、アンダーヘアだけ猛々しく臍まで伸びてるっていうのが、妙に雄っぽくてセクシーというか。アンバランスで、萌えるなぁ・・・。  って、いやいや! 俺、なんで、さっきから変なことばっか考えてるんだ?!)  ニヤニヤしたかと思ったら、青ざめたり、柏木は一人百面相をしながら、慌てて、草薙の下着を探し、片足ずつ通して何とか履かせた。  部屋に連れていくのに、再度横抱きにしようかとも思ったが、いわゆる「お姫様抱っこ」で運ばれたとあっては、草薙の男の沽券に関わるだろう、と考え直し、自分の背中に背負って運ぶことにしたのだった。  しなやかでほっそりした草薙の身体と肌の感触、そして温もりを背中で感じ、柏木の胸には甘やかな感情が広がった。  しかし、自分に対する草薙の気持ちは、あくまで、「先輩を慕う後輩」の域を出るものではない。草薙に対する恋愛感情めいた気持ちは、自分の中だけに止めておかなければいけない、と、彼は、自分を戒めていた。

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