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第9話 ほろ苦い初めてのコンクール【草薙】
市民会館大ホールで開催されたコンクールには、万全の準備で臨んだにも拘わらず、県大会予選落ちに終わった。
全国大会出場を狙っていた青陵高校としては、不本意な結果だった。
「・・・すいません。先輩たちの最後のコンクールで、結果が出なかったのは、俺のせいです。指揮者の俺の、力不足です」柏木は、深々と三年生に頭を下げた。
頭を下げたまま、なかなか顔を上げない。周りが心配し始めた時、その肩や背中が激しく揺れ出した。ポタポタと、大粒の雫が、膝を掴む柏木の両手や、地面に振り続けた。
柏木は、男泣きしていた。
榊部長は、労わるように、柏木の両肩を叩いた。
「結果がよくなかったのは、俺たちの実力が足りなかったからだ。柏木、お前のせいじゃない。そんな風に責任を感じる必要はないよ。精一杯やったから、俺たちに悔いはない。すがすがしい気持ちで、胸を張って引退するよ。
それより、これまで部の為に、よく頑張ってくれたな。本当にありがとう。お前はあと1年あるんだから、来年は、俺たちの分まで頑張ってくれ」
他の三年生も、目に涙をうっすら浮かべながらも、榊の言葉に深く頷き、何人かが、榊に続くように、柏木の肩や頭をポンポンと優しく叩き、感謝や労いの言葉をかけた。
ようやく柏木の涙が落ち着くかと思った頃、同じトロンボーンパートで、人一倍長い時間を一緒に過ごした熊谷が、「柏木ー! 俺、お前と一緒にブラスバンドやれて、ホント良かったよ!」と、力一杯、柏木を抱き締め、二人とも再度男泣きしたのだった。
先輩たちの涙や、落胆。柏木の悲痛な姿。
(そうか・・・、今年のコンクールは終わったけど、来年は、圭先輩たちが三年生で、最後の年になるんだ・・・。僕、もっと頑張ります。そして、あなたを支えます。)
草薙は、無言のまま、柏木の後ろ姿を見つめながら、決意を新たにした。
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