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第14話 コンクールの夜の告白【柏木】
「えー、それでは、我らが青陵高校ブラスバンド部の、吹奏楽コンクール全国大会出場を祝して。明日からは、全国で恥ずかしくない演奏ができるように、また練習頑張るけど、今日はとりあえずカンパーイ!」
打上げと称してカラオケボックスに繰り出した部員たちは、ソフトドリンクで乾杯し、育ち盛りらしく、唐揚げやらフライドポテトといった高カロリーな料理をパクパク平らげ、思い思い歌ったり、歌に合わせて楽器を吹く者まで居て、昼間の興奮が続いていた。
まだ火照 っている頭と身体を冷やそうと、柏木は、店の外に出て、ガードレールに腰掛け、夜空を見上げた。夏も、終わりが近づくと、日が暮れると少しは涼しくなった。
「圭先輩」
少し高めの優しい声。自分に呼び掛けている声は誰のものか、目線を下げる前から柏木は知っていた。
「草薙」
予想通り、柏木の愛しい人が、少しはにかみながら自分の前に立っていた。最近すっかり大人になったので、以前はよく見た彼のこういう表情も、久しぶりだ、と、柏木は思った。
「昼間は、みっともないとこ見せて、すいません。ちょっと恥ずかしいです」草薙は、照れたように微笑み、柏木の左隣に腰掛けた。
柏木は、右手を差し出した。草薙も、右手で柏木の手を握り、二人で右肩同士を寄せ合い、ぶつけた。
「大丈夫だよ。俺に対して、みっともないとか、そういうの気にすんな」と、真顔で言った後、彼は続けた。「何たって、俺、お前の全てを一度見てるからな」悪戯っ子のようにニヤリと笑った。
「うっ・・・。それ言います?! 勘弁してください・・・。」草薙は、耳まで真っ赤になった。
「ふふ・・・。可愛かったよ、あの時の草薙は」柏木が思い出したようにクスクス笑うと、草薙は、頬を赤らめたまま、不満げに口を尖らせた。
「じゃあ、今は、可愛くないみたいじゃないですか」
「・・・今は、可愛いっていうより、カッコいいよ」柏木が、少し目を眇 めて、眩 しいものを見るように、草薙を眺めた。
「圭先輩」草薙が、真剣な表情で、背筋を伸ばした。
「好きです」
シャープになった頬や、顎の線には、青年の爽やかな色気を漂わせ始めているが、大きな瞳や、ふくよかな涙袋の可愛らしさは、以前から変わらない。
柏木は、一瞬、驚いたように目を瞠 り、しかし、間髪入れず答えた。「俺も、草薙が好きだよ」
あっさり柏木にそう言われ、草薙は、うっ、と言葉に一瞬詰まった後、「・・・あの、僕の『好き』の意味、分かってます? 単に、先輩として憧れてるんじゃないんです。キスしたいとか、そういう意味での『好き』です。圭先輩、桜井と付き合ってるんですよね?」と、再び頬を赤らめて、必死に言い募 った。
「うん。分かってるよ。俺も、恋愛感情っていう意味で、お前が好きだ。あと、桜井とは、少し前に別れた」
予想を完全に裏切る展開に、口をパクパクさせて言葉を失っている草薙を前に、柏木は苦笑した。
「あーあ。お前に、先に言われるとはなぁ。俺から言うつもりだったんだけど。普段は控え目だけど、いざという時は、しっかりしてて意志が強いんだ。・・・お前の、そういうところが好きだ」
ガードレールに置かれた草薙の手に、そうっと自分の手を重ね、きゅっと上から握りながら、柏木は、草薙の顔を覗き込んだ。
「あのさ。間接キスがOKってことは、直接しても、いい・・・?」
草薙の頬は、再び、みるみる赤くなった。
「えっ・・・、なっ、なんで、それを・・・?」
「見ちゃったんだ、たまたま。ごめん。でも、草薙の気持ち、嬉しかったし、俺的には、すげぇキュンとしたんだ」そう言いながら、柏木は、自分の表情と声が、どんどん甘くなっていくのを感じた。
肩と肩が触れ合った。男同士のハグでぶつけ合う時とは違って、躊躇 いがちに、ひっそりと。触れているところが熱い。
右手を伸ばして、草薙の頬を包み込み、怖がらせないように、ゆっくりと顔を近づけた。
草薙は、少し戸惑ったように眉を下げたが、切なげに瞳を潤ませ、素直に瞼を閉じた。その長い睫毛 を震わせる初々しさと、自分に委ねてくれる健気さが愛おしい、と思った。
(好きだよ)
その気持ちを、ありったけ自分の唇に乗せ、そうっと、触れるだけの短いキスをした。
唇を離すと、そのまま、彼の顔を自分の肩に引き寄せた。本当は、彼がどんな表情をしているか見たかったが、シャイな草薙のこと、きっと、耳まで赤くして恥ずかしがり、俯いてしまうだろう。それなら、いっそ、自分の腕の中に抱き留めていたい。
草薙の手が、自分の背中に回され、シャツをきゅっと握りしめる感触が伝わってきた。早鐘のような鼓動を感じる。草薙の匂いを、胸一杯に吸い込み、その耳に、小さく音を立ててキスを落とした。
「菫 、」ずっと呼びたかったその名前を、ようやく口にでき、柏木は、自分の頬にも熱が集まるのを感じた。
「俺と、付き合ってくれる・・・?」
草薙は、無言のまま、柏木の腕の中で何度かコクコクと頷いた。
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