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第17話 あなたのものになりたい【柏木】

 柏木と草薙の、微笑ましい、高校生らしい交際は、順調に続いていた。昼休みに待ち合わせて一緒にお弁当を食べたり、部活を引退した柏木がたまに練習に顔を出したり、柏木が図書館で勉強して草薙の部活が終わるのを待ち、一緒に帰りながらおしゃべりをしたり。  時折は、人目を盗んで、音楽室や部室で、唇を重ねることもあった。この日も、部活が終わった後の音楽室で、二人は甘い口付けを交わしていた。  うぶで恥ずかしがり屋なところが可愛いのだが、最近は、物言いたげな眼差しで、草薙の方から控え目にキスをねだってくることもある。そんな恋人の成長が、柏木は、嬉しくて仕方ない。  この日の恋人は、今までになく、大胆に迫って来た。 両腕を柏木の首に絡め、がっちり頭をホールドすると、自分から舌を入れて、ねっとりと絡めて来た。少し驚きつつ、腰を抱いてキスを返すと、草薙は、自分の下半身を、ぐいぐいと柏木のそれに擦り付けてきた。  「お・・・、おい、(すみれ)。今日は、すげぇ積極的だな」  恋人が自分を激しく求めてくれるのは嬉しいが、奥手な彼を(おもんばか)って、いつも自分を制御している柏木としては、彼を(ほしいまま)にして、怖がられたり嫌われたりしないかが心配だ。彼の真意を知りたい。  荒い呼吸のまま唇を離した草薙の、潤んだ瞳を見つめながら、いったん身体を引いて、「キスだけじゃ足りない? もっと欲しいの?」と、柏木は訊いた。  「僕を・・・全部、圭先輩のものにしてください。抱いてほしいんです」  濡れた瞳で囁かれ、その細い指先で頬を優しく撫でられた上に、とどめの刺激的な台詞は、柏木の下半身を直撃した。しかし、大胆な言動とは裏腹に、草薙の唇が細かく震えているのが、気になった。  「菫が俺を求めてくれるのは嬉しいよ。俺も、菫が欲しい。でも、菫、さっきから震えてる。これ以上進むの、まだ少し怖いんじゃないか?」恋人のプライドを傷付けないよう気を遣いながら、柏木は優しく言った。  「こ、怖くなんかっ・・・! 圭先輩は、過去の恋人と、してるんでしょ? 僕だけ、先輩と繋がれないなんて嫌です。僕だって、先輩の恋人だからっ・・・、先輩が、全部欲しい・・・!」  自分の過去の恋人にまで嫉妬し、全身でぶつかってきてくれた草薙が愛おしく、柏木の胸は詰まった。しかし、柏木が感動で言葉を失ったとはいえ、無言だったことで、自分に自信のない草薙は誤解した。  「・・・それとも、先輩、僕なんか、抱く気にならないですか・・・?」  草薙は、今にも泣き出しそうに眉を八の字に下げ、長い睫毛(まつげ)にびっしりと涙を(まと)わせている。  柏木は、(こら)え切れず、噛み付くように草薙の唇を奪った。  「そんなこと、あるわけないだろ・・・! 俺だって、菫が全部欲しいよ。でも、それ以上に、お前の気持ちを大事にしたい。自然と、そうなりたいって思えるようになるまで、菫と俺と、二人のペースで進めばいいと思ってる。  それに、全部って言うけどさ・・・、男同士って、けっこう大変なんだよ。特に初めての時は。だから、こんなとこで、俺を煽らないでくれよ・・・。菫にそんな色っぽく迫られたら、俺、マジで理性の限界」柏木が、荒い呼吸の合間に、切なげな表情で、困ったように草薙に微笑みかけた。  「やきもち焼いてくれたのも、愛されてる感じがして、嬉しかった。けど、俺が好きなのは菫だけだからね。信じて?」甘く囁き、乱れた前髪を優しく梳き、まだ涙が(にじ)んでいる睫毛を始め、草薙の顔中にキスした。  柏木の気持ちが通じて、切羽詰まった表情が和らぎ、草薙は優しい眼差しに戻った。そして、無言のまま、ぎゅっと柏木の背に腕を回し、抱き付いた。  「・・・・・。」  身体が密着すると、柏木の中心が主張していることが伝わる。戸惑い気味に俯く草薙に、柏木は、照れ笑いした。  「さっきの、『抱いて』が、効いたよ」  草薙は、きゅっと唇を噛み締めると、右手を、柏木の下半身に伸ばした。恋人の柔らかい手で、優しくスラックスの上から触れられ、柏木は(うめ)いた。  「ちょ・・・、菫、ダメだよ・・・。」  「でも、このままじゃ、苦しいでしょ・・・? 挿れるのは無理でも、手とか口で、していいですか・・・?」  (ひざまず)いて、上目遣いで見上げ、さっそく柏木のベルトを外そうとしている草薙の姿に、ご奉仕の図を連想し、柏木はますます猛った。  スラックスを下ろし、下着をずらし、柏木自身を手に取って、まじまじ見つめている草薙は、まるで無邪気な子どもみたいだ。そんな草薙に欲情して、いやらしいことをさせようとしているのは、背徳感が半端ない。  優しく先端に触れてから、カリと竿の境目の部分をゆるゆると撫でる。それから、掌で竿全体を包み込み、上下に手を動かしていく。  「ねぇ・・・、菫が自分でする時も、そんな風にしてるの・・・?」溜息交じりに、柏木が囁くと、草薙が頬を赤らめ、軽く(にら)むように見上げてきた。そして、無言のまま、ぱくっと先端を咥えた。柏木は、その喉を仰け反らせ、「ああっ」と声を上げた。  舌をゆるゆると絡め、裏筋に沿って舐め上げる。その舌技はぎこちなかったが、奥手な恋人が、頬を染め、自分のものを口で愛撫してくれている、その視覚的な刺激で、柏木は興奮した。  (・・・気持ち良い・・・けど、これじゃイかなそうだなぁ。でも、止めて良いよ、なんて言ったら、菫、「やっぱり僕の技術じゃ・・・」って、絶対落ち込むよなぁ・・・)  柏木は、(しば)逡巡(しゅんじゅん)してから、「菫、手、貸して」と、草薙に自分自身を握らせると、その上から自分の手を重ねて、力強く一気に扱いた。「ん・・・、イきそう。菫、口、離して・・・」と柏木が喘いだが、草薙は、ふるふると頭を左右に振り、一向に柏木を口から離そうとしない。  「ダメだよ・・・、もう、出ちゃう・・・」切ない声をあげた直後、愛しい人の口の中で、柏木は果てた。  「僕で、気持ちよくなってくれましたか・・・?」飲み干しきれなかった白濁を唇の端から垂らしながら、(まなじり)を染めて尋ねてくる草薙は、これまでとは違う色気を放っている。  「ああ・・・。すっかり翻弄された。すげぇ気持ちよかった」大きく息をつきながら、柏木は答えた。  フフフと色っぽく含み笑いしながら、柏木の服を直し、跪いた姿勢から立ち上がった草薙の中心に、今度は、柏木が手を伸ばした。  「え、えっ?!」困惑する草薙に、「今度は、俺がしてあげる」唇の片端を釣り上げ、ニヤリと思わせぶりな笑みを浮かべた柏木が、抵抗する間も与えず、草薙自身を掴んだ。あっという間に、そこに熱が集まった。  「や、やあっ」手で必死にそこを隠そうとしたが、「菫だけずるい。俺にもさせてよ」と、拗ねたように柏木が抗議すると、草薙は、恥じらいながらも自分の身体を柏木に委ねた。  恥ずかしがり屋の草薙自身を、外に引っ張り出すと、その控え目な主張の、張りつめた先端に滲み始めた液体を指に纏わせ、鈴口を撫でる。溝や小さな窪みまで、優しく丁寧に。  草薙は、最初こそ、必死に声を堪えていたが、敏感なところに触れられると、身体を(よじ)ってよがり、甘い声を上げ、次第に、快感に素直に身を任せるようになった。  草薙の、(とろ)けるような表情や妖艶な姿態に刺激され、柏木の若い身体は、再び反応した。我慢しきれず、自分自身を取り出すと、草薙のものと擦り合わせ、二本纏めて扱いた。  「一緒にイこう」  二人は、その若い熱情を、激しく(ほとばし)らせた。

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