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第19話 もっと近くに (2/2)【柏木】
「綺麗だ」思わず、そんな言葉が、柏木の口から零 れ落ちた。
一年前の草薙は、体躯も手足も細くて、少年そのものだったが、今、目の前で、一糸纏 わずベッドに肢体を投げ出している彼は、少年と大人の境目で揺蕩 っているようだ。
その尊さに、柏木の胸は熱く震えた。
「せんぱい・・・、」少し舌足らずな、甘えるような声で、草薙は訴えた。
「すき」
「俺も好きだよ・・・」柏木は、草薙の耳や首筋、そして胸元と、草薙が感じやすいところを狙って、集中的に口付けた。
「は、ああ、やあぁっ」快感に翻弄され出した草薙が、少しずつ恥じらいを脱ぎ捨て、声を上げて、色っぽく喘ぎ始めた。
「もっと素直になって。生き物の本能だから。俺たちも、本能に従っていいんだ」自らも、雄の本能を出し始めた柏木の目線は、既に匂い立つような男の色気を放っている。
「んん、んっ、ああっ!」淡く色付く小さな乳首を摘まみ、ねぶり、吸い上げると、生まれて初めて与えられた強い快感に、草薙の肢体は、若い魚のように跳ね上がった。
その中心は、既に十分すぎるほどの熱を溜め込み、更なる刺激をねだるかのように、先端は濡れていた。
柏木は、予想以上に早いペースで、草薙が快楽の階段をのぼりつめていく様子に、驚きと共に感動すら覚えた。草薙の素直な感受性と、柏木と繋がりたいという強い気持ちが成せるわざだとすれば、自分の恋人は、なんて健気なんだろう。
「菫 のここ、もう、こんなになってる。感じてくれて嬉しい。」
育ち盛りの植物のように勢い良く立ち上がった草薙の茎を、柏木は掴み、少しずつスピードや強さを上げながら扱いた。
先端からは、次々に滴が溢れてきて、柏木の手は、既にしっとりと濡れている。茎に、脈が浮き出るくらい屹立したところで、今度は、敏感な先端に刺激を与える。
優しく指の腹で鈴口に触れられ、草薙は甘く呻 いた。
柏木は、そのまま、先端全体を包み込むように、草薙自身を口に含んだ。唇と舌で愛撫しながら、手で茎を上下に扱いた。
「あっ、あ、だ、だめ、」草薙が慌てはじめた。
「いく?」柏木は、草薙自身を口に含んだまま、顔や体の動きを観察する。
「もうだめ、・・・っ、あああ、いく、いく」草薙は、ぴくぴくと身体を震わせて、その精を柏木の口内に吐き出した。
「気持ちよくなってくれた・・・?」柏木は、額と頬にキスを落とし、甘く囁いた。
くったりと身体を投げ出し、息を乱して、泣きそうな表情を浮かべている草薙が、頷いた。
「・・・あまりに気持ちよくて、びっくりしちゃった。僕、すごい声出しちゃった」
「それだけ、俺を信じて心と身体を開いてくれたんだ、って、俺は感動してた」柏木の瞳も、潤んでいた。僅 かに眉間に皺を寄せ、泣きそうだった。
体重をかけまいと、両肘と両膝を立てていた柏木の首に、恋人の腕が回され、ゆっくり頭を引き寄せられた。草薙が、自分の顔を僅かに傾け、角度をつけて、柏木に優しく口付けた。
柏木は、胸が熱くなり、キスを返しながら草薙の首に腕を回し、そのまま、彼の身体ごと、ゴロンと横向きに転がった。
二人は、少しの間、無言で見つめ合った。
「圭先輩。僕を抱いて。僕を、全部、あなたのものにして」草薙は、澄んだ瞳で微笑んだ。
「うん。俺に、菫を全部ちょうだい」柏木も静かに微笑んだ。
そのまま、草薙を180度転がして、背中を向けさせた。その敏感な背中を、唇と舌で愛撫すると、草薙は、あられもない声で喘ぎ始めた。
彼の表情が蕩 けてきたのを確かめると、柏木は、ベッドのすぐ横に置いておいたローションのボトルを掴んだ。たっぷり手に取り、しっかり温め、草薙の後ろに手を伸ばした。
お風呂で事前に少し触れていたからか、前戯で一度のぼりつめているからか、草薙は身体をこわばらせず、リラックスしたまま、柏木の指を素直に受け入れた。
ゆっくりと、浅く抜き差ししたり、内側を広げるように、内壁を押しながら指を回した。丁寧に、草薙の良いところを探していく。何度か、甘く鼻にかかった声で小さく啼いたが、ある場所に触れた時、乳首を吸い上げた時と同じように、彼の身体がビクンと大きく跳ねた。
「ん・・・、ここ、かな・・・?」柏木は一人ほくそ笑み、そこを少し強く擦りあげた。
「やぁああっ・・・。なに・・・? これ」初めての感覚に身悶えしながら、草薙は、子供の泣き声のような嬌声をあげた。
少しの間、同じところを愛撫してから、「菫・・・、指、増やすよ」と声をかけ、頷くのを確かめて、二本目の指を入れる。
「どう・・・? 痛くない・・・?」
「うん。痛くはない。なんか、ちょっと、もぞもぞするけど。不思議な感じ」
二本の指で、もう少し強めに、先ほど見つかった草薙の良いところを刺激する。
「ふ・・・ぁあああ・・・。ん・・・・。」さっきよりも、喘ぎ声が色っぽく、表情や身体の動きに妖艶さが出てきた。
「じゃあ、もう一本入れるね・・・。これが入れば、たぶん、大丈夫だから」
草薙の痴態に、目と耳から刺激され、とっくに柏木は臨戦態勢である。しかし、初めて他人を内部に受け入れる、愛しい恋人のため、その身体に、念入りに準備を施していた。
三本目の指が入り、奥まで進める頃には、草薙の身体は、びっしょりと汗で湿っていた。まだ大人の男というよりは少年に近い、甘い体臭が強まった。
「けい・・・、けい・・・・」譫言 のように、草薙が、柏木の名前を呼ぶ。
痛いほど大きく張り詰めている自分自身にゴムを被せながら、柏木は、苦笑した。
(・・・菫のやつ。普段は大人しくて清楚なのに、エッチの時、こんなにエロいなんて反則だよ・・・。俺、そんなに持たないかも。早く終わっちゃったら、カッコ悪いなー)
うつ伏せで腰を高く上げさせ、背中から覆い被さるように、柏木は、草薙の中に自分自身を埋めていった。既に滾 りまくっている柏木にとっては、うねるように締め付けてくる恋人の内部に、少しずつ、ゆっくりとしか入れないのは、拷問に近かったが、初体験の恋人に苦痛を与えないよう、必死で耐えた。
草薙だけでなく、柏木も、全身汗だくになっていた。垂れた汗の雫が、草薙の背中に落ちた。
「・・・これで全部入ったよ」柏木は、手で自分の額を拭った。おずおずと、背後を振り返った草薙のキョトン顔に、微笑みかけると、恥ずかしそうに微笑み返してきた。
妖艶に喘ぐ姿態と、子供のように無邪気な笑顔のギャップが、更に柏木自身を滾らせる。
「少しずつ、動かすね、」最初は小刻みに抜き差しし、馴染んできたら、一直線に、草薙の良いところに向かって擦り付ける。
「ふっ、ぅうううう、ん、やぁあああ、ああ、んん」草薙は、苦し気にも聞こえる喘ぎ声で、シーツをぎゅっと掴んでいる。
「だいじょうぶ? つらくない? つらかったら、おしえて、」柏木は、荒い息をついて、昇りつめそうになるのを堪えていた。
「ごめ、もっと、いっぱい、してあげたいけど、おれ、もお、」右手を草薙の前に回し、中心を掴み、抽送に合わせて扱いた。
「んんん、きもちいい、あ、あ、ぼくも、い、いきそう」切なげな喘ぎ声をあげると同時に、強く、何度も内部を収縮させながら、草薙は達した。その収縮を感じて、柏木も、ようやく、熱情を迸 らせた。
柏木が自分自身を草薙の蕾から引き抜き、 二人の身体の繋がっていた部分が完全に離れると、草薙の手足がぶるぶると震えた。
「生まれたての小鹿みたいだ」まだ微妙に眉間に皺をよせ、少し疲れたような、情事の後の気怠 い気配を漂わせた柏木が、優しく、恋人の背中を撫でて、いたわりながら、彼の腹やシーツに飛んだ白濁や、足の間に垂れたローションを拭き取った。
草薙は、うつ伏せにベッドに横たわると、ちょっと恨めしそうな目を向けた。
「だって、『少しずつ動かす』って言ったのに、すごい勢いで、一気に攻めてくるから! 『あ、ちょっと慣れてきたかも』って思ったら、すぐ、一番感じるところばっかり、グイグイ突いてくるんだもん。もう、だんだん目の前が白くなってきて、天使のお迎えが来ちゃうかと思った」と、頬を染めながら口を尖らせ、可愛いことを訴える。
「ご、ごめんって。けどさ、菫だってずるいよ! 普段は、すげぇ清楚なのに、エッチの時、色っぽ過ぎるんだもん。しかも、中に入ったら、柔らかいのにキュって締まるしさ。ホントは、もっとゆっくり、色々してあげたいって思ってたんだけど、あれで俺も限界。あれ以上焦らされたら、俺が一人でイッてた」柏木も、珍しく、拗ねたように口を尖らせ、いつになく幼い表情で訴えた。
「菫、そのエロい表情や身体は、絶対、他の男に見せるなよ。魅力的すぎる。非常に危険だ。」と、急に勿体ぶった柏木に、「ぷっ」と、草薙は噴き出した。
その笑顔が、いつも通り無邪気なのを見て取ると、柏木は、優しい笑顔に戻り、草薙の頬を愛おしそうに撫でた。
「恥ずかしいけどさ、俺も、今日、すげぇ緊張してたんだ。菫に、嫌な思いさせたくなかったし、初めての相手が俺で良かったって思ってほしかった。だから、菫が、今、そういう風に、いつもみたいに笑っててくれるのが、嬉しい」
乱れた髪に、濡れた瞳。物言いたげに少し開いた唇。鼻の頭には、まだ、うっすら汗が滲んでいる。ベッドに横たわったまま、自分を見詰めてくる草薙は、おもちゃを投げて遊んでもらうのを待ち侘びる子犬みたいだ。
「僕も、圭先輩と繋がれて、すごく嬉しかった。
先輩が、僕に色々してくれることも、恥ずかしかったけど、嬉しかった。
色んなところをお互いに見せ合うのは、恥ずかしかったけど、嬉しかった。
すごく気持ちよかった。
僕の初めてが、圭先輩で良かった。」
そう言って、ふんわり微笑む草薙に、柏木は、萌え滾った。
「お、お前・・・・。なんて可愛いこと言うんだよー! もー!」
柏木は顔をくちゃくちゃにして、愛しい恋人を抱きよせ、その髪に手を差し込んでわしゃわしゃと撫で回し、その頬に自分の頬を擦り付けた。
「菫・・・。大好きだよ・・・。」
「僕も、大好き・・・。」
二人は、遊び疲れた子どものように、抱き合いながら眠りについた。幸せそうな笑みを浮かべる二人を、夜の帳 が優しく包んだ。
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