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第21話(しずく)

休みだから 昼過ぎまで寝てしまった 何やらリビングの方で動く音がして 目を覚ます あれ、祈織さん今日いるのかな と、リビングに行くと 『…あ、田中さん。こんにちは』 ハウスキーパーの田中さんがお掃除をしていた 「あら、起こしちゃった?ごめんなさいね」 『んーん、もう昼過ぎてるし』 よく考えたら 田中さんと2人っきりって初めてだな 「学校は?」 『今日はおやすみ』 「そうなのね。えー、しずくくんだったかしら?」 『うん、おれしずくだよ』 「女の子みたいな名前ね」 『えっと、しずくはおれの、苗字で…あだ名っていうか』 「あらそうなのね。お名前じゃないの?シバくんと一緒ね」 と、田中さんは言った 『えっと…おれの名前は紬で…祈織さんの志波は苗字そのままでしょ?』 「違うのよ、前にシバくんと一緒に暮らしてた子がね、柴犬みたいだからシバっていうから私すっかり信じちゃって」 『柴犬?』 なんで、と思った けど、それ以上に気になる事があった 『祈織さん、誰かと暮らしてたの?』 「あら、聞いてない?」 『うん、知らない』 俺はただの居候だし 「結構長いこと一緒に暮らしてたのよー。シバくん今でこそいい男になっちゃったけど、あの頃はまだ内面が幼くてね」 『え?祈織さんが?どんなの?』 想像できなかった 俺の前での祈織さんは たまによくわかんないことするけど それでも間違えなく大人で ちゃんと働いている人で、 「最初は働いたりしてなくてね、ずっとお家にいたからよく話してたのよ。ほら、ずっと家にいたらあの子も暇でしょ?」 『えっと、うん』 「お手伝いはできないからって言って私の話し相手だったのよ、シバくん」 『へえ、』 祈織さん、働いてなかったの? 「それにあの子甘えん坊でしょ?同居してた人になんでも任せちゃって。お熱出した時なんか特にずっとくっついてて。お世話任せっぱなしだったわ。懐かしいわあ」 と、田中さんは言った 祈織さんが、甘えん坊? そんなの、俺は想像できなくて 俺の中の祈織さんは 結構ひとりでいる事が多くて 甘えん坊な感じはわからなかった そして、同居してたという人 なんで今はその人と一緒に住んでないのか いつまでその人と一緒に住んでいたのか その人とどんな関係だったのか 気になって、 もっと田中さんの話を聞きたくなった でも、俺が知っていいのかな 祈織さんが、なんにも言わないから 俺が知ったらダメなのかもしれない なんだよ、これ すっげえもやもやすんだけど ◇◇ 『…解せない』 解せない というか、ずっともやもやしていたから 俺はもやもやをどうにかしたくて さっそくシーチキンマヨネーズを作ることにした ご飯を炊いて ツナ缶開けて ちゃんとレシピを調べて 美味しく作れるように頑張った ツナ缶の油もちゃんと切ったし ご飯も美味しく炊けたし 田中さんが作っていってくれた豚汁とサラダにはぴったりだった さっそくおにぎりをたくさん握って シーチキンマヨネーズ以外にも 梅とかふりかけのおにぎりも作った お腹がすいたから 味見がてら1個食べたら かなりおいしくできた そんな時 祈織さんから電話がかかってきた なんだろ、と直ぐに電話を取った 『もしもーし』 「しずく」 『うん、どしたの?』 「今日急に送迎頼まれちゃったから俺のタブレット持ってきてくんない?送迎無いから置いてきてたんだけど」 『おー、りょうかい。あれ、という事は夕ご飯食べないの』 「うん、適当にくう」 『えええ!おれ作ったのに』 「あー、ごめん」 『あ、じゃあお弁当にするからたべる?おにぎりだけど』 「あー、じゃあそうして。道わからなかったらタクシー使ってもいいから」 と、言われ 電話を切ったらさっそく準備を始めた おにぎりを包んで タブレットを持って 部屋着すぎてさすがに情けなかったから ちゃんと着替えて会社の方に向かった 会社は毎回汚れ物の洗濯を出しに行くけど 一人で行くのは初めてだった 会社について 受付で通してもらおうと挨拶をする 『こんにちは、』 と、受付で挨拶をして通してもらって しばらく言われたミーティングルームで祈織さんを待っていると 「おお、しずく。ごめんごめん」 『あ、祈織さん』 「持ってきてくれた?」 『はい、これタブレットとあとおにぎり』 「おお、さんきゅ。おにぎりなに?」 『うめと、ふりかけとシーチキンマヨ』 「ふーん、ありがとう。じゃあ俺もう行かなきゃ。今日は先に寝るようにね」 『うん』 じゃあね、とばたばたと出ていく祈織さんに手を振って見送った さて、俺も帰るか、と ミーティングルームを出た時だ 「お、しずくじゃん」 『…おっさんだ』 ガタイのいいおっさんにばったり会って 立ち止まる 「どうしたの?なにしてんの?仕事帰り?」 『ちがう、祈織さんに届け物あっただけ』 「ふーん。家まで送ってやるよしずく」 『…なんで、』 「いや、俺も帰るし」 いや、この前このおっさんの前で 車でおもらししてしまってバツがわるい いや、おむつ履いたから汚したりはしなかったけどさ 「ほれ帰るぞー」 と、首根っこでも掴まれたような気分で おっさんにつれられ会社を出た 受付の人とか みんなすげえ挨拶してたし この人本当にえらい人なのかな 『おっさんえらい人なの?』 「言ったじゃん。えらい人って」 『ふうん、』 まぁどうでもいいや 車に乗り込んでシートベルトをした時だ 「あ、帰る前に小便大丈夫?お前この前漏らしたぞ」 『だ、大丈夫だし!』 「行きたくなったら早めに言えよ」 『だから大丈夫だって』 と、おっさんは車を発車した 「シバに何届けにきたの?」 『タブレットと、おにぎり』 「なんだよ、おにぎりって」 『夕ご飯、うちで食べると思って作ったあとだったんだもん』 「ふーん。あいつちゃんと飯食う?」 『うん、あったら普通に食うよ。無い時は食わないけど』 「お前が作ってんの?」 『まぁ時間ある時は。たまに食べに行くけど』 「どこいくの、酒とか飲みに行くわけじゃないだろ、シバ」 『普通にファミレスとか。おっさん祈織さんと仲良いの?』 「なんで?」 『べつに。くわしいから』 「まぁ付き合い長いからなー」 『ふうん、』 祈織さんは 田中さんのことを付き合い長いって言ってたけど このおっさんとも長いんだよな どれくらいなんだろ 「お前学生だっけ。今日休みなの?」 『いや、今日土曜日だし』 「そーいやそうか。シバと休み合わないだろ」 『うん、まあ。つか祈織さん事態おやすみ少ない』 「まぁたしかにあいつちょっと働きすぎだよな」 えらい人からみても、そうなのかな 俺の気のせいじゃなかったんだ 『この前祈織さんお休みって言ってたからおれ学校ずる休みしちゃった』 「悪いやつ」 『だって、珍しかったんだもん。まるまるお休みなの』 「どっか行ったの?」 『あー、ちょっとお買い物行っただけ。IK〇Aに』 「IKE〇?」 『おれの、お茶碗とかと祈織さんの枕かいにいった』 「ふーん…枕ねえ。あいつよく寝れてんの?」 『いや、俺の方が早く寝ちゃうから知らないけど。寝てるんじゃない?』 よく考えれば 祈織さんっておれより早起きだし おれよりおそく寝るよな こんど祈織さんのお休みの日は たくさん寝させてあげよ

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