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第27話(しずく)

「お、今日の晩飯オムライスだ」 と、祈織さんは帰ってきて ネクタイを外しながら言った 『あっためておくから先に手洗ってきて、』 「おー」 と、祈織さんは手を洗って 食卓についた 『はいどうぞ』 「んー。いただきます」 と、祈織さんはスプーンでオムライスを食べ始めた 『思ったんだけど祈織さんってあんまりお酒とか飲まないね?』 「んー、そんな強くないからな」 『そうなんだ、意外』 「まあたまには飲むけど」 と、いつも通りの祈織さん 『………っておかしくない?』 「ん?」 『さっき、おれ告ったよね?祈織さん好きだからつきあって!って』 「あー、うん」 『あー、うん じゃなくて…えっと、祈織さんは?おれのこと、すき?』 「あー、まぁ普通」 『何普通って、え?振られた?』 「んー、どっちかと言えば」 『ええええ、そんなあっさり』 「いや、だって、べつにお前のこと普通だし。嫌いじゃないよ」 『………祈織さんって付き合ってる人いるの?』 「んー、多分いない」 『多分って何!』 「いや、いないって」 『じゃあ好きな人は?』 「多分……いない」 『また多分じゃん!』 なんなんだ、結局 『じゃあ多分、おれのこと、好きになるのもありえるってこと?』 「どーだろうな。つかなんでおれのこと好きなの?男じゃん、おれもお前も」 『え?だって、…祈織さん、おれのこと助けてくれたし、』 「助けた?」 『道端でおもらしして困ってるおれを助けてくれたし、住むところないから住ませてくれてるし』 「あー、まぁ、あの時はちょうどよかったしな」 『でも!わかってるよ、あの時はちょうど仕事に使う人が必要だったってことくらい』 「だったら、なんで?」 『それでも好きになっちゃったんだよ!祈織さんが、お茶碗買ってくれたり優しくしてくれるのも嬉しいし…寝ぼけてエッチな事したりとかよくわかんないことする事たまにあるけど、それも気になるし。この人、なんでこんな事するんだろうって』 「…俺そんな事してた?」 『…無意識!そこもまた好き!!』 「なんだよそれ、…ていうかおれそんなに人の事好きになんないよ」 『なんで?』 「性格?」 『ええ?じゃあどんな人が好きなの?』 「そういうの、あんまりない」 『なんで?前に好きだった人とかは?』 「……前?」 『そう、前に好きだった人』 「……変なやつだったよ、気まぐれで、意地が悪くて」 そんなの、どこがいいんだって思った けど、その人のこと思い出している祈織さんの顔は今まであんまり見た事ないような顔をしてて もやもやした何かが胸の中に広がる 「それで、俺の事なんでもしたがるんだ、」 『何でもしたがる?』 「世話焼きって感じか?」 『ふうん、じゃあおれも祈織さんのお世話するから、』 「いや、やめて。いい。俺もう大人だし。俺がしずくの世話焼いてるでしょ?今」 いや、どうかな、それは 気まぐれでたまに世話焼いてくれるけど 基本的には俺の世話焼いてくれてるのハウスキーパーさんな気もするけど… 『う、うん』 ………って、あれ? まさか、 『その、好きだった人って歳上?』 「……うん、まぁ、そうだけど」 『付き合い、長いの?』 「まぁ…」 『今も、たまに会う?』 「……まぁ、わざわざ会う約束する訳じゃねえけど」 これは、間違い無い気がする 「詮索するみたいなのやめてくんない。この話もう終わりな」 『い、祈織さん!』 「なんだよ、大きな声だして」 『おれ、諦めないから!負けないから!』 「は?」 『祈織さんの事、好きだから、祈織さんに好きになって貰えるように頑張るよ!』 「……ふーん、俺、好きになるかわかんねえよ」 『なる、大丈夫!』 「いや、何が、」 祈織さんの好きな人は きっとあの人だ ハウスキーパーの田中さんだ いや、田中さんめちゃくちゃいい人だし 祈織さん異常に懐いてる理由がようやくわかった 10年くらい契約してるらしいしな… そりゃ好きじゃなかったらそんなずっと契約しない 田中さんのお料理ある日めっちゃ喜んでるし。 いや、田中さん既婚者じゃないのかな、まず 田中さんはハウスキーパーさんなだけあって 家事も完璧だし 仕事に関係ないところとかでも 豆知識教えてくれたりとか優しい。 でも、厳しい時もあって 祈織さんがあんまり好きじゃない食べ物も 栄養が偏るからって料理に入れていくこともある 完璧だ、 これは、完璧に祈織さんの胃袋とハートを掴んで離さないんだろう でも、おれには負けてないことがひとつあった 『おれのが若いし』 田中さんに比べたら俺のが若い 祈織さんに、好きになって貰えるための時間は たっぷりあるんだ 胃袋だって、がっつり掴んでやる、 「……は?なんのこと?」 『手始めにちゅー!』 と、祈織さんの両方のほっぺたを掴んで 唇を押し付けた おでこに 祈織さんは驚いたのか カラン、とスプーンを落とし びっくりした顔で俺を見た そして、 「っふは、」 と、吹き出して笑い始めた 『え?え?ときめくところだよ!ここ!なんで、笑うの?』 「ははっ、お前がバカだから」 と、最早爆笑で 祈織さんがこんな笑ってんの初めて見た 『あれー?』 やっぱり口にした方がよかったかな? 「あー、腹いて。しずく、」 『な、なに』 「頑張って」 と、オムライスを食い終わり 食器を片付けながらいう祈織さん 頑張って? 何を? 何をどう? おれが、祈織さんに好きになって貰えるように 頑張っていいってこと? 『いおりさん!おれ、がんばるよ!』 だから、祈織さんも、 早くおれのこと好きになってね

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