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第35話(しずく)

今日社長と飯食ってくるから先寝てて と、今日はおれは学校が創立記念日でお休みで 一日中暇なのに起きたら 祈織さんはすでにいなくて そんな連絡が入っていたから 今日は祈織さん帰ってくるの遅いんだ、とガッカリした 社長とご飯なんてなんか会食とかかな… 幹部の人は大変だなあ 暇だ、とゴロゴロしていると インターホンがなって 田中さんが来たことがわかる 『こんにちはー』 と、田中さんを家の中に案内して やる事のないおれは邪魔にならないように 大人しくソファに座ってテレビを見ていた そう言えば田中さんが来る日におれがお休みって久しぶりだな この人が、祈織さんの好きな人 と、ついじっと見てしまう 「しずくくん今日はお休みなの?」 『うん、今日創立記念日』 「そうなのね。お休みの日にごめんなさいね。ゆっくり出来ないでしょ」 『ううん、大丈夫』 「今日のご飯作っていくけど何か食べたいものあるかしら?シバくんからリクエストとか聞いてる?」 『祈織さん今日ご飯食べないって。特にリクエストとかも言ってなかった』 「そうなのね、じゃあ日持ちするものでも作っていこうかしら」 と、掃除は終わったようで 次の仕事の料理の事を考えていた 『祈織さん、田中さんのご飯好きだから喜ぶと思うよ』 「そうかしら、じゃあ沢山作ってくわね」 と、色々作ってくれるらしくて キッチンに立つ田中さんが見える位置のキッチンのカウンターの所に座って 料理を作る田中さんをじっと見る 『普段、祈織さんがいる時はどんなお話するの?』 「別に普通の話よ?最近何があった、とか今日のご飯のリクエストとかかしらね」 『ふうん、そうなんだ…、ずっと祈織さんは田中さんにお願いしてるから、田中さんの事信頼してるんだね』 「まぁ、長いことお仕事いただいてますけど、シバくんの前のお家の人からのご紹介だからかしらね」 『前の家の人の?』 「そうよ。シバくん、昔は社長さんの所に居候していたから、そのまま社長さんのご紹介で、こっちにも来る事になったのよ」 と、田中さんは説明してくれて、 『え、祈織さんが住んでたのって、社長の所だったの?』 「そうよ?もう何年も前の話になるけど。聞いてない?」 『えっと、知らない』 「あら、シバくん言ってなかったのね」 なんで、社長と一緒に住んでたなんて 知らなかった なんで、教えてくれなかったんだろう あれ、そしたら 『祈織さん今日社長とご飯って、』 「あら、そうなの。仲良しだからね、あの2人」 『え?仲良しなの?』 「仲良しよー、あの2人。社長さんの家に住み始めた頃シバくんお仕事してなくてね、だから社長さんがシバくんを雇ったのよ」 『……へぇ、』 「ちょうど、今のしずくくんとシバくんみたいな感じかしらね?あ、でもしずくくんは大学生よね」 『あ、…うん。ねえ、祈織さんってなんで、社長と一緒に住んでたの?』 「私もそこまでは詳しく聞いてないけど、ある日お仕事しに行ったらシバくんが居てね、後から社長さんに聞いたらこの前から一緒に住むことにしたって、急だったわね?」 あれ、俺、 勘違いしてた? 祈織さんが好きなのは ずっとハウスキーパーで付き合いが長くて たまに厳しい事して 今も、たまに、田中さんが来た時に祈織さんがお休みだったら会う 田中さんの事が好きなのかと思ってた けど、 そうじゃなくて、 祈織さんを拾って、家に置いて 自分の会社に雇って それで、仲がいいから意地悪する事もあって、 一緒に暮らすのを辞めた今でも 会社で会うことになる そんなの、 社長の事が好きなんじゃないのかな、 祈織さんは好きな人は多分いないって言ってたけど…[多分]だし そういえば、前に田中さんが言っていた シバくん甘えん坊だから 一緒に住んでいた人に甘えっぱなしだったって そして、社長も、祈織さんの事が好きで… めちゃくちゃ甘やかしてたんじゃないのかな、 じゃなかったらわざわざご飯なんて行かないだろうし、 きっと今日のも、会食とかじゃなくて ただ単に仲良しだからご飯行くだけで…… そう言えば祈織さんに社長が枕を送ってきた事もあった あれもきっと、 祈織さんが枕買ったって聞いたから… なんかわかんないけど、個人的に祈織さん宛のプレゼントで… うああ、おれなんで気付かなかったんだろう、 なんで…気付いちゃったんだろう、 悲しくなっちゃった ソファに座り、そのまま ぽて、と横になった 社長って、どんな人なんだろう どんな人かわからないけど 勝てる気なんてしなかった だって、相手は社長だし。 一般的にみても社長相手に ただの居候のおれなんて 勝てるわけがなかった それなのに、 その社長と、祈織さんは一緒に暮らしていた事もあって、おれよりずっと付き合いも長くて深くて… それで、今も社長さんの家には 祈織さんのお茶碗やお箸もあるんだろうな… だって、祈織さんは社長さんのお家を出る時に 自分のお茶碗やお箸を持ってこなかったのだから 一緒に住んでいた、一緒に生活していた証を、置いてきたんだ。 もしかしたら、今日だって ご飯、社長さんのお家で、祈織さん用のお茶碗とお箸を使って食べてるのかもしれない 祈織さん、どうしたらおれのこと 好きになってくれるのかな? きっと 祈織さんにとっておれはただのペットで なんとなく、拾った流れで飼ってるだけで… おれが好き好きってするから お遊び程度でえっちな事とかもつきあってくれてるだけなのかな? 祈織さんがおれに甘えてくることなんて 無くて… 祈織さんからしたら暇つぶしで、犬で…好きになるとかそれ以前の問題なのかな それならおれは ペットじゃなくて ちゃんと1人の人間に見てもらいたいから ちゃんと自立、した方がいいのかな? ちゃんと自立して おれが祈織さんの事養うって言えるぐらいじゃないと勝てないのかな? おれはただ、祈織さんが好きで 祈織さんに好きになってもらいたいだけなのに

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