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第39話(祈織)

「………っぅ、」 あれぐらいの酒の量なら問題ないと思っていたのに 俺の膀胱はこの前のおもらしで少し緩んでいるらしい 身体がおしっこを排出し始めたところで目が覚めて 慌てて飛び起きて シーツを集めて自分の中心に当てた じゅわじゅわ、とシーツに染みていき ようやく止まったと思ったら もうシーツは水浸しで ぽたぽたと、水が滴りそうだったから急いでフローリングに下ろし 俺も濡れた下着でベッドを汚さないように 慎重にフローリングに降りる 起きていたし、おねしょじゃない けど、 「…もらしたじゃん……」 と、誰にでもなく怒り 下着を脱ぎ シーツの濡れていないところで自分の中心をぐしぐしと拭いた 「……はぁ、」 すっげえ、惨め 29にもなっておもらし癖が復活しかけてるなんて おれにだって羞恥心はある。 あの子供におもらしした姿を見られたくない 寝室のドアをそっと開けて リビングを確認する 布団が膨らんでるからまだ、寝てるかな、と 音を立てないように寝室から出て シャツを引っ張って前を隠し、 びしょ濡れのシーツと下着は身体の後ろに隠し お風呂に向かう 『ぅうん、…』 と、布団の中から声が聞こえて 思わず肩が少し震える 起きてないよな、と 少し覗き込むと寝ているのが分かって 急いでリビングを出てお風呂に向かった どうにかばれずに風呂場に入り 身体と汚してしまったシーツと下着を洗う ちょうみじめ、この自分で洗ってる時って そして太ももの内側に赤い痕がつけられてることに気付いて更にイライラした なんだよ、あいつ 意味わかんねえ 風呂でもやもやも全て洗い流して すっきりしてリビングに戻ると 子供が起きていた 『あ、祈織さんおはよー』 「おー」 『おれ、昨日よなかに寿司食ったから胃もたれしてんだけど』 「あれだけの量で?」 『いや、数時間前にガッツリ夕飯食った後だからね』 「ふーん、」 じゃあ朝飯は食わないのかな、とコーヒーをいれてやる 『祈織さん…きのう』 「…なに、」 『…すげえよく言えないんだけど』 「……なに、」 と、良くない切り口の事だけはわかる 『いおりさん、おれのこと、どう思ってんの、迷惑なら……諦めるし』 「いや、べつに迷惑とかないけど」 『えっと、じゃあ…付き合ってくれんの』 「…付き合ってどうすんの、おれよく分かんないんだけど」 そんなの、昨日だって あいつに言われて考えていた けど、結局わかんなくて イライラしかしない 「あー、おれ今日ほんとむり。しずく。おれもっかい寝るから」 『え?えっと、ちょっと』 と、困惑するしずくを置いて寝室に戻った そんなの、わかんねえもん 付き合うってなんだよ 何があんだよ、男同士で付き合って しずくはどうしたいんだよ でも、 すっげえ、大人気ない態度取った しかも八つ当たりした おれ、すっげえ、情けねえ と、ベッドに横たわると 『…えっと、祈織さん』 と、控えめにドアが開く 「…なに、」 『えっと、なにか、嫌なことあった?おれ、聞くよ、祈織さんの嫌なこと』 「…べつにねえけど」 『そっか…』 と、俺の寝室の中には入ってこずに しずくは寝室のドアのところに座った 『…あのね、祈織さん。おれは、祈織さんと付き合ったら、祈織さんにもおれのことすきになってもらいたい』 「…なに、きゅうに」 『だって、祈織さんが付き合ってどうすんのって言ったから』 「…好きになってどうすんの?えろいことするの?」 『いや、そ、それもそうだけど…それはべつに、いや、したいけどさ。ものすごく』 「なんだよ、どっちだよ」 『…えろいこと、いっぱいしたいけど、そうじゃなくて、おれ、祈織さんがなんか嫌なことあったら聞いてあげたいし、おれが嫌なことあったら聞いてほしい』 「…いまのままじゃ、だめなの。それ」 『だめじゃないけど…やっぱり好きな人にそういうの話すと違うと思うし……』 付き合ったことねえからわかんないけど、としずくはごにょごにょ付け足した そういうもんなのかな、 好きな人相手だとちがうって、 『えっと、対等になりたいし…俺のものになってほしいし』 「なに、きゅうに独占欲みたいなの」 『だって、本当の事だもん。あ、で、でも、おれのものって言っちゃったけど、祈織さんは物じゃないし…えっと、』 「結局、どうしたいの。お前は」 でも、対等になりたいってつむぎの言葉にはおれにも覚えがあった ペットじゃなくて、対等に扱って欲しいって おれはそう思ってた ペットのままじゃ、好きになってもらえないから 『んんん、でもいいや』 「え?なにが」 『べつに、今は付き合ってくれなくていいや』 「……なんで、」 『だって、べつにすきじゃないのに今すぐ好きになってって言っても無理だと思うし…急ぎじゃないし。気長にまつ。おれ、まてる』 「おれが、お前の事すきになるかわかんないよ」 『好きになってもらうまで気長に待つし努力するし、おれ』 「……お前は優しいね」 なんで、こいつはおれのこと好きなんだろ なんで、おれはこいつの事好きにならないんだろ 「おいで、つむ」 と、寝室の入口の所にずっと座ってる紬を部屋の中に呼ぶ 『えっと、』 と、おずおずと中に入ってくる紬 「一緒に寝よ。寝るだけ」 と、シーツを敷いてないベッドに紬を招き入れる 『寝るの?』 「うん、寝る」 『おれ、がっこう、』 「…じゃあ俺が寝るまでいて」 『いいよ、おれいおりさん好きだからやさしくしてあげる』 と、ベッドに入っておれに抱きついてくる 「へんなやつだね、お前」 『いいじゃん。一緒にいて飽きないでしょ?』 「そうだね」 と、俺もゆっくりと目を閉じた うん、つむぎは子供体温 よく寝れそうだ こいつといると、 何も考えなくていいから居心地がいいのに このままじゃ、だめなのか?

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