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第46話(祈織)

ホテルに行き 満足した後に 予定していた喫茶店に来ていた 「仕事中にホテル行くなんてろくでもねえなあ」 「誰のせいだよ」 「シバが誘ってきたんだろ」 「きょ、……お前がしかけて来たんだろ」 「なに、名前呼んでくれねえの?」 「呼ばねえから」 「さっきまで呼んでたじゃん」 「知らない。忘れた」 ふん、と目線を逸らし ナポリタンを口に運ぶ 「なぁ、シバ。あのガキとどこまでいってんの」 「関係ねえじゃん」 「関係なくねえし。なに、もうやった?」 「おっさん下品。食事中にそういう話すんなよ」 関係ねえじゃん、 お前には おれがどうしようと おまえには… だって、あの人がいんじゃん 元ペットのおれがどうしようと関係ねえじゃん 「満足できねえだろ、あんなちびっ子相手じゃ。お前、腹の奥グリグリされんの好きだし」 「だから、食事中にそういう話すんなって」 と、おれがいうと へーへーと 興味無さそうに 先に食い終わったあいつは タバコに火をつけた 「なんでいつまでもちょっかいかけてくんの」 「決まってんだろ、そんなの」 「なに、」 「お前は俺のものだ」 聞いて損した そんなの、分かりきっていたのだ 結局おれはお前の所有物でしかなくて いつまでたっても 「おれ、あの子とちゃんと向き合うつもりだけど」 「………なんで、好きになったのか」 「嫌いじゃないし、」 「中途半端だろ、そんなん」 「あの子といると、気が楽。おれのこと好きって全身で言ってくるし」 「シバ、言っただろ、お前は俺のものだ」 「いつまでそんなこと言ってんの」 「お前だって、この前、もう俺とはしないって言ってたのに結局快感に逆らえないだろ」 「………それは、」 お前が、 おれが我慢できないように 身体に覚え込ませたんだろ ナポリタンを食べ終わり ずこ、とクリームソーダを飲みきる うん、10年経ってもここの味は変わらない 店主のおじさんは昔と違って髪の毛が真っ白になったけど 昔と変わらないナポリタンの味に おれの好きなクリームソーダだ 『先もどる。仕事残してるし』 「待てよ、シバ」 『待たない』 「俺もこれ吸ったら行くから待て。お前も1本吸え」 「やだ」 「シバ、待て」 そう言われると 逆らえなくて 電子タバコを1本吸い始める 「おれ、あの子のこと結構すきなんだよ」 「なに、その結構って」 「結構なんだもん」 「中途半端だな」 だって、 おれが1番好きなのは つむぎじゃないんだ でも、 つむぎのことも後ちょっとでちゃんと好きになれる気もするんだもん 「泣きたくなってきた」 「散々鳴いてたろ」 「うっせえ」 「お前が泣くなんて珍しいじゃん」 「お前のせいだろ」 「俺が何したんだよ」 そんなの、 おれのこと 散々混乱させてんじゃん 「そういえばシバ身長伸びたよな」 「なに、今更」 「いや、思い出すんだよ、ここ来ると。初めてお前とここ来た時のこと」 「ふーん、」 「今に比べるとお前、本当にガキみてえだったよな。未成年だったし」 「そりゃそうだろ、10年も前の話じゃん」 「もうそんな前になるか」 「だって、おれもう29だよ」 「まじで、そんなんなの」 「自分の歳考えろよ」 そうか、こいつが俺を拾ったのって 今の俺ぐらいの年齢なんだ あの頃のおれにはすっげぇ大人に見えた 実際に大人だったよな 社長だったし こいつと比べると おれはあの頃から何が変わったんだろうか 成り行きでここで働いて やりたいことがあった訳でもなかった こいつに昔、聞いたことがある やりたいことを 実家を継ぎたくないのと 親を楽させたい と、答えていた それはもうこいつが俺を拾った時点で叶えていて、 なのに俺は、未だにやりたいことすら見つけられていなかった 「シバ、そろそろ行くか?」 「うん」 と、タバコを吸い終わったタイミングで立ち上がり お会計をしてくれる おれのやりたい事ってなんだ? 「天気いいなあ、今日」 「そう?」 「そうだろ、こんな日にホテルや会社にこもってちゃ勿体ないよなあ」 「しょうがねえじゃん、社会人なんだから」 「そりゃそうだけどよ」 やりたいこととかよくわかんねえけど 生きていくしかないんだよなあ 一応社会人だし あの頃と違って、家と金はある 自分の家の家賃を払えるくらい、 自分でハウスキーパーさんを雇えるくらい、 自分でスーツも買えるくらい 枕も、茶碗も箸も 自分で買えて、 人ひとりくらいなら居候させられるくらいの経済力はある 「シバ、どうした?」 「いや、生きなきゃいけねえんだなって」 「なんだそれ、生きたくねえの」 「いや、そういう訳じゃねえけど」 そういう訳じゃねえけど、 こいつの飼い犬でいるのが嫌で家を出た けど結局 今、自分で働いているつもりでいても 流されるまま 結構はこいつに雇ってもらって こいつの元で働いている 経済力はあるけど 結局はあのころとそんな変わらない 「なぁ、おれ」 「なんだ」 「仕事辞めようかな」 「…………は!?」 「うん、そうするわ」

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