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第56話(しずく)
朝起きたら
祈織さんはいなくて
なんかしらないけどおねしょしちゃったみたいで下半身もベッドもびしょ濡れで
悲しくなって1人でちょっと泣いた
家中さがしても祈織さんはいなくて
祈織さんに抱いてもらって
気持ちよくて
最高だったのに
何故か不安になってしまった
もう祈織さんは帰ってこないんじゃないかって最悪な考えまで浮かんで
遂に会社の前まで来てしまった
いや、重いかなっておもったんだけど
安否が心配で……
しかし、会社の前で
ウロウロとしていた
いや、なんて言って入ったらいいのかと迷って入れないでいた
『んむう』
「あ……ちびっ子」
『……ん?あ、』
ガタイのいいおっさん
改め
社長、
改め
祈織さんの好きな人
どこか行って帰ってきたのか
会社に入ろうとしたところで目が合う
「どうした、ちびっ子。お前今日仕事入ってなかったろ」
『ちびっ子じゃ、ないです』
「じゃあなんだ?ガキ?」
『ちがう、おれは、つむぎです』
「ふーん、つむぎ」
『な、なに』
「何はこっちのセリフだよ。何しに来た」
『えっと、それは…』
「なに、祈織になんか用か?」
『用ってほどじゃ、』
祈織さんのこと、
呼び捨てにした…
『祈織さん、』
「…シバ、昨日の夜中ウチ来たんだけど?」
『えっと、それは、』
祈織さん、
いなくなったと思ったら社長のお家に言ってたんだ
なんだそれ、
おれ、勝ち目ないのかな
やっぱり、
おれは祈織さんにとって
ペットでしか、ないのかな
「お前、シバの事本気で好きなの?」
『好き、ですけど』
「俺に勝てると思ってんの?」
『えっと……それは、』
おれは、
経済力もないし
祈織さんよりガキだし
すぐおもらしもおねしょもしちゃうし
泣き虫だし…
付き合いの長さも勝てないし
けど、
『……おれのが、若いし』
と、唯一勝ってる所をどうにか絞り出すと
社長は噴き出した
そして、おれの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた
え?
え?
ここはなんかもっと
バチバチってなるところじゃないの?
そして、
「ライバルだな」
と、笑って言った
なんだよ、この人
普通にいい人じゃん
そう言えばあきらくんも言ってた
いい人って
ここで、
祈織は俺のだから手を引け!
とか高圧的に言われたら
なんだとお!ってなるのに
そんな、
こんなおれを
ライバルって
この人からしたらおれはただの祈織さんのペットなのに……
あぁ、そうか
祈織さんは
飼われてたって言ってたけど
この人は本気で飼ってたつもりなんて無いんだ
ただ、普通に好きな祈織さんと一緒に住んでいただけなんだって
『おれ、もうすぐ祈織さんのお家出ていきます』
「ふーん、いいの?」
『うん。ちゃんとした人になりたいから』
「へえ、『ちゃんと』ねえ…」
『……なに、』
「シバ、普通に出社してるけど呼ぶか?」
『無事ならいい。おれ学校だし』
「ふーん、じゃあな。つむぎ」
『うん、ばいばい』
と、ガタイのいいおっさんに手を振って帰ることにした
◇◆
夜
学校の後家に帰ると
祈織さんは普通にリビングでテレビを見ていた
「つむおかえりー。牛丼買ってきたけど食う?」
『えっと、食う』
「直盛りにしちゃった。ごめん」
『うん、平気』
と、それをレンジで温める
祈織さんはソファに座りながら
先に食ってた
「つむ、シーツ洗ってくれたんだね」
『お、おれが、汚しちゃったから』
「うん、まぁ、そうだけど」
と、おねしょした事も結局バレバレで恥ずかしくなる
祈織さんなんで社長の所行っちゃったのって
聞きたくて
祈織さんの顔をチラチラみるけど
祈織さんはテレビから視線を離さない
「あれ買おうかなー」
と、テレビに向かっていうから
テレビを見ると
お掃除ロボットのCMがやっていた
あれ、床の物どかさなきゃちゃんと出来ないから
祈織さんは多分無理だと思うけどな
今は週2回田中さん来てるから部屋キレイだけど
きっと田中さん来なかったら大変な事になってるんだろうな
『祈織さん、』
「んー、なに?」
『おれさ、次の給料日で目標金額溜まるから…ここ出ようかなって』
「ええ、なんで?」
『えっと、元からそういう予定だったし』
「出てって、どうすんの」
『ちゃんと、学校いってちゃんと卒業して、ちゃんと就職しようかなって』
「ふーん、ちゃんと、か」
『えっと、うん』
「おれ、つむが辞めるまでは会社続けようと思ってたからそしたらおれも来月いっぱいだね」
『えっと、やめちゃうの』
「うん、もう社長にも言ってるし」
『なにすんの、』
「んんん、パン屋さんかー、パイロットか、パンダの飼育員さんかー、パンケーキ屋さんかー、パスタ屋さんかー、パソコン関連かー…」
と、真剣に答えてない事だけはわかった
「んんん、まぁ貯金あるし気長に考えるかな」
『そっか』
祈織さん、いくら稼いでるかしんないけど
家賃とか光熱費以外にあんまり豪遊とかしないからな…持ってる服とかは高そうだけど
『祈織さんイケメンだしショップ店員とかホストとか』
「いや、俺もう30になるし。人見知りだからむり」
あ、人見知りって自覚、あったんですね
『祈織さんって何が好きなの?』
「んんん、そんな急に言われたってわかんねえ」
『まぁ、だよねえ。おれも就職先迷ってるし』
「どっちが先に就職決まるか勝負ね、つむ」
『うん、』
そうだよね、
「出てくの来月かー…」
『えっと一応は。すんなりお家決まればになっちゃうけど……』
「うちにいる間はたくさんかわいがってあげるよ、つむ」
『あ、ありがとう、かわいがって…』
「お前はおれのペットだからね」
と、俺の頭を撫でた祈織さんの言葉でようやくわかった
ここにずっといたら
きっと祈織さんは
ずっとおれのことかわいがってくれるけど
それはいつまでたってもペットとしてでしか無くて
やっぱりおれはここから出ないと
ちゃんと祈織さんに見てもらえないんだって
もう迷わない、
おれはここを出ていこう
『おれ、男前受けになるね!』
「ん?よくわかんないけど、うん」
『待っててね!』
「んん?まあ、おれ風呂入ってくるね」
と、祈織さんはお風呂に向かおうとする
『えっと、おれも一緒に入っていい?』
「んんん、だめ。今日さっさと済ませたい気分だし」
『そ、そっか』
「それに、おれ決めたから。もうお前とは中途半端にエッチしないって」
と、言い残しリビングを出ていってしまった
んんん?
なに、
中途半端にって
あれ?
おれ、昨日、祈織さんに抱かれたよね?
あれ?俺の妄想とかじゃないよね?
それなのに…
なに、急に
え?もうしてくれないって事?
中途半端にって?
中途半端じゃなくてガッツリならするって事?
あれ、
祈織さん……
おれ、もう︎︎︎︎わかんないよ……
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