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3 外泊
二人きりでエレベーターに乗り込む。ガラス張りになっていて外が見えるエレベーターに一人ワクワクしてしまい、優吾さんそっちのけで俺は眼下に見える煌びやかな街の光に見惚れていた。
「凄い上まで行くんだね! 凄え! 高い!」
「なんだ、子どもみたいだな」
優吾さんに笑われて我に返った。俺、一人ではしゃいじゃって恥ずかしい。優吾さんから見たらそりゃ子どもみたいなもんだけどさ。恥ずかしくて黙ったタイミングでエレベーターがチンと止まった。
扉が開き廊下を進む。誰もいない静かな空間。優吾さんの背中を見ながら、緊張を隠して後を歩いた。
部屋に入るとすぐに「おいで……」と手招きされる。おずおずと優吾さんに近付いたら、ぐいっと腕を掴まれて強引に抱きしめられた。
……心臓早すぎて止まりそう。
「緊張してるの? ごめんね、急にこんなことして……やっぱり帰りたかった?」
耳元でそんな風に囁かれたら堪らない。子どもに見られたくないという気持ちと甘えたい気持ちが入り混じり、何故だかどうしようもなく泣きそうになってしまった。自分の感情がよくわからない。優吾さんの問いかけに、俺は首をブンブン振ることしかできなかった。
「顔、見せて」
優吾さんに頬を触られ、顔を上げる。優しく見つめられそのままキスをしてくれた。
優吾さんのキスは凄く気持ちがいい。キスが上手なんだと思う。そもそも俺はキスをしたのも優吾さんが初めてだから、他と比べようもないのだけれど。
体に力が入らない。
キスだけでヘロヘロになってる俺を、優吾さんはくすっと笑って抱き上げてくれた。
「本当に君は……可愛いな」
優吾さんの優しい笑顔。俺にだけ向けてくれるこの表情。安心する。でも今日はいつもとちょっと違う。高級ホテルで食事してそのままお泊まり。いつもと違ったこの状況で緊張し、すっかり俺は舞い上がってしまっていた。
抱き上げられたままベッドまで連れて来られた俺は、どうしたらいいのか落ち着かない。ジャケットを脱ぎネクタイを緩める優吾さんの動きを目で追った。振り返った優吾さんにソワソワしてるのが可笑しいとまた笑われてしまった。
しょうがねえじゃん。こんな豪華な部屋、テレビでしか見た事ねえもん。優吾さんはやっぱり慣れてるのかな。何度もこういうところに泊まってるのかな。まさか誰かと一緒……なんて事はないよね。
「そんな顔しないで……なにもしないから」
シャツのボタンを緩めながらそう言うと、俺の頬をそっと撫で優吾さんはバスルームに行ってしまった。
何もしないのかよ。期待しちゃったじゃんか。
優吾さんの姿が見えなくなって、いくらか緊張も解れたので俺は窓の方へ歩く。窓からの景色にしばらくの間見惚れていた。
「あ! そうだ、ばあちゃんに一応連絡入れとこ」
一緒に住んでいる祖母の顔が頭に浮かんだ。夕飯はいらないとは言ってあるものの、普段からバイトで遅くなるから寝てろと言っても起きて待ってたりする祖母だから、ちゃんと連絡してやらないとな……そう思って携帯を取り出す。会わせたことはなかったけど、優吾さんの事は伝えてあった。勿論「恋人」ではなくバイト先で知り合って良くしてもらっているお兄さんみたいな存在の人、と。
でもなんて言おうか? ホテルに泊まるって言うのもなんか変だと思い、画面を見つめ考えてしまった。
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