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5 思いがけない提案

 バスルームに入ったものの、すぐそこに優吾さんがいると思うと落ち着かない。何もしないって言ったけど本当かな? シャワーの湯を頭からかぶりながら、俺は今までしてきた優吾さんとのキスを思い返す。  初めてのキスは俺からだった。今思うとほんと恥ずかしい。勿論一瞬唇を重ねるだけの啄ばむような軽いキス。そうだ……その時も俺、優吾さんに「可愛い」と言われ笑われたんだ。それからはキスをしたのは片手で数えられる程度。この先はもう少し大人になってから……なんて言われて大事にされてるって思い込んで自惚れてるだけで、本当は相手にされてないんじゃないかな、と不安になった。  このあとの大事な話だって一体何なのだろう。わざわざこんな所にまで来て。ああそうか、もしかしたら「最後の思い出に」とか、そういう事なのかな。  俺、別れ話されるのかな……  考えれば考えるほど、俺はどんどん悪い方に考えてしまって悲しくなってしまった。 「公敬君?……大丈夫かい?」  曇りガラスの向こうから心配そうな優吾さんの声がする。俺があまりに遅かったから、心配をかけてしまった。 「ごめんなさい、大丈夫。もう出るから……」  俺は慌ててシャワーを済ませ、優吾さんが置いておいてくれたホテルの部屋着に袖を通した。 「何をそんなに浮かない顔してるの? やっぱり泊まるのは嫌だった?」  ベッドに腰掛けている優吾さんの横に俺も座る。「嫌じゃない」と言いながら俺は勇吾さんに寄りかかった。 「ねえ、話って何?」  モヤモヤしてたってしょうがない。さっさと話を聞いて、それからだ。 「ああ、それね。気になる?」  勿体ぶったように優吾さんはクスッと笑い俺の顔を伺う。いつもと違うことをされ、大事な話だなんて気になるに決まってるじゃん。緊張で口の中が乾いてくる。ドキドキが煩く優吾さんの顔もろくに見ることができなかった。でも「気になる?」と聞かれ小さく頷く事しか出来なかった俺を、優吾さんは優しく抱きしめてくれた。 「公敬君、卒業したら俺と一緒に暮らさないか?」 「………… 」  え?  優吾さん、今なんて言った?  抱きしめられたまま耳元で囁かれ、思ってもみなかった言葉に驚いて慌てて俺は優吾さんの顔を見た。 「はは、なんて顔してるんだ。聞こえなかった?……どうかな? 俺は公敬君と一緒に暮らしたいんだけど、嫌かい?」  驚いて返事ができないでいると、優吾さんは笑いながら俺の鼻先にキスをした。 「一緒に暮らすって、えっと、同じ家で……二人で? え? 俺と優吾さん……が? ずっと一緒に? ほえ? マジか……」  もしかして、もしかしなくても、これって同棲ってこと?  驚きと嬉しさでテンパってしまって上手く言葉が紡げない。みっともなくシドロモドロな俺に、優吾さんは「落ち着け」と言いながら背中をポンポンと撫でてくれた。 「公敬君は卒業して働くんだろ? 早く自立したいっていうの、俺も協力させてもらえないだろうか? 何なら就職先だって俺が何とかしてやるよ?」  真っ直ぐ俺のことを見つめる優吾さん。  いや、凄く嬉しいし、同棲はしたい。でも就職先まで世話になるわけにはいかない。好きな人にそんな甘えることなんて出来ないから。 「嬉しい。うん……いいの? 同棲ってことだよね? 就職先は大丈夫。それくらい自分でちゃんと決める」  幸せすぎて実感がわかなかった。一緒に住むってことは、これから二人で物件探したりするのかな。日用品とか家具とか……ベッドとかも必要じゃね? 料理……は、するかわかんねえけど冷蔵庫だって必要だ。 「待って! ごめん、優吾さん! 俺そんな金ねえ……無理だ」  気持ちが先走って色々考えたら、どうやったってそんなすぐには稼げねえだろうし、そもそもまだ就職が決まったわけじゃない。自分のすぐ先の未来に絶望し、優吾さんに縋ってしまった。 「ははは、大丈夫? 何を心配してるんだ。無理なんかじゃないから。そもそも君の金なんてあてにしてないから平気だよ? 心配することはない。公敬君はこれから頑張って就活して、卒業してくれるだけでいいから。これからも俺のそばにいてくれるだけでいい……」  そう言って優吾さんは俺の頬に両手を添えて、そのまま長くていやらしいキスをした。

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