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8 温度

 掴まれていた頬が少し痛んだ。俺が優吾さんに攻められて半ベソかいて射精するのを見て興奮したのだろうか……時折見せる優吾さんの俺を見る目がやっぱり怖いと思ってしまった。でも、きっとエッチの時はこういうものなのだろう。初めてだからわからなかっただけだ。  俺がイッた後、優吾さんはしばらくの間抱きしめてくれ、優しく体を拭いてくれた。そしてバスタブに湯まで張ってくれてこうやって二人で一緒に風呂に入っている。 「どうだった? 泣いちゃうほど気持ちよかった?」 「……優吾さん、ひどい。なんか意地悪だ」  からかわれてるようでちょっと嫌だった。どうせ俺はこういうのは初めてなんだよ。確かに気持ち良すぎて怖いくらいだったけどさ。  優吾さんはバスタブの中でも後ろから俺に抱きつき、お喋りしながら俺の乳首や尻を弄ってる。抱きしめてもらってるのは心地よいけど、こうやって体をいやらしく弄られるのは恥ずかしかった。優吾さんの悪戯にまんまと反応しちゃってびくびくしてるのを、きっとまた面白がってるのだろう。そう思ったら悔しかった。 「公敬君は感じやすいのかな? その反応、凄い嬉しいよ。苛めたくなっちゃう」 「やめてよ。しょうがないじゃん。気持ちいいんだもん」  それより優吾さんはイってないよな。いいのかな? 今日はしないって言ってたし、満足できたのかな。俺がそんなことを考えているのが伝わったのか、優吾さんは俺の頸にキスをしながら話し出した。 「今度は公敬君の中で気持ちよくさせてもらうからね。ふふ……ここね。俺のためにちゃんと準備しておくんだよ。わかった?」  後ろから尻の穴を指で突かれ、ビクって思わず腰を上げたら捕まってしまった。 「わかるよね? ここをこうやって自分で解すんだよ。俺を受け入れる準備、ちゃんとしておくんだよ」  優吾さんを受け入れる準備……わかっているけど、それを直接優吾さんに言われるのはなんか変な感じがした。いや、俺が経験がないからしょうがないのかな。正直、そういうのは優吾さんにして欲しいと思ってしまう。 「……うん」  顎を掴まれて前を向かされたと思ったら思いきりキスをされた。風呂の熱気と優吾さんの体温、そして込み上げて来る幸福感に頭の中から蕩けそうになった。  もうのぼせそう。  優吾さんは俺のことをずっと可愛い可愛いと言って離してくれない。頭の先から体中撫で回されて犬にでもなった気分だ。半分のぼせてしんどいせいでもうエッチな気分になることもなく、俺はぼんやりとそんな事を考えていた。  風呂から出ても優吾さんは甲斐甲斐しく俺の体を拭いてくれ、頭まで乾かしてくれた。冷蔵庫から見たこともない洒落た瓶に入っている水を渡され、それをグラスに移して飲んだ。それからしばらくテレビを見て、俺は優吾さんに抱きしめられながら朝まで眠った。  翌朝早くにチェックアウトを済ませ、近くのカフェで朝食をとった。てっきり優吾さんも休みだから、のんびり今日も一日デートができるのかと思っていた。どこに行くのか楽しみにしていたのに、仕事があるからと言って車で家まで送ってくれた。昨夜はあんなにイチャイチャしていたくせになんだか余所余所しく感じるし、優吾さんがあっさりしすぎているように感じてちょっと不満に思ったけど、そんな事で、と思われるのもシャクだったから、その場は笑顔で優吾さんと別れた。  家に入ると婆ちゃんは出かけていて俺一人。  自分の部屋に入ると何故だか寂しさが込み上げる。いつもなら、次はいつ会えるかな……なんてわくわくするのに今日は違った。  優吾さんとキス以上のことをして距離が縮まった筈なのに、そんな風に感じてしまうのはなんでだろうな。

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