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9知らない

 不安になるのは深い関係になって独占欲が増えたから。  今まで以上に優吾さんのことが好きになったから。    だからこんなに寂しく感じるんだ──  あの日から俺は益々優吾さんのことを考えるようになってしまった。  あまり俺から連絡することはない。勿論連絡先は知ってるけど学生の俺と違って優吾さんは忙しい社会人だ。仕事の邪魔をしちゃ悪いし、用もないのに声が聞きたいなんて、恥ずかしくてできなかった。  そうなんだけど。  今まではそれで平気だったはずなのにダメだった。優吾さんからの連絡がないまま何日も過ぎていく。何度も携帯を眺めては優吾さんの番号をタップしそうになるのを我慢する。ちゃんと約束したんだ、卒業したら一緒に住むんだ。次会うときは優吾さんとセックスをする。ちゃんと自分で準備しとけと言われたから……だから連絡がないからといって不安になることはない。 「最近元気なくね? どうかした?」  休み時間、一人でいる俺に心配そうに声をかけてくれるこいつは唯一の友達、晋哉(しんや)。うまく友達を作れなかった俺に最初っからぐいぐい話しかけてくれた物好きな奴だ。人懐こくて友達が沢山いて、俺とは真逆ないい奴だった。 「いつにも増してこっち来んなオーラも酷いし、どうしたんだよ。嫌なことでもあったか? あ、前言ってた彼女のことか? 俺でよければ話聞くよ?」  顔を寄せ、周りに聞こえないように気を遣って小声でそう言ってくれる。まあ、彼女じゃなくて彼氏のことなんだけど、流石にこればっかりはいくら晋哉でも正直に言えなかった。 「確か公敬の彼女って年上って言ってたよな。最近どうなの?」  どうなのも何も……なんて言おう。以前話の流れで恋人の存在を話してしまったからか、興味津々な顔をする晋哉に困ってしまった。でも正直言ってこういう相談ができる友達なんてこいつしかいないし、俺は悶々としているこの気持ちを吐き出したかった。 「……なかなか会えないんだよね。仕事が忙しいのか連絡も来なくてさ。前まではそんなに気になんなかったんだけど……やっぱダメ。エッチしたら好きな気持ちがふくれあがった……」 「は? お前何言っちゃってんの? やだ恥ずかしい! 羨ましい! 年上のお姉さんで童貞卒業かよ……クソ……いいなぁ」  いや、童貞は卒業してないんだけど、説明のしようがないから知らんふりした。 「連絡来ないって、そんなのお前から連絡すりゃいいじゃん。仕事忙しいって彼女何の仕事してんの? 会おうと思えば会えるだろ」  晋哉はただなんとなしに聞いただけ。それでも俺はドキッとしてしまった。 「………… 」  優吾さんは何の仕事をしてるのだろう。言われて改めて思い知らされる。  俺、優吾さんのこと、何にも知らない。いつも優吾さんから連絡あったし、俺からするのはなんか気がひけて……気にならなかったって言ったら嘘になるけど、変に遠慮して聞きそびれていたんだ。 ……っておかしいよな。俺達恋人同士だよな? 「知らねえ。はは……なんの仕事してんだろうな」  誕生日は知っている。俺の誕生日と同じ月だねって話をしたから。  住んでるところ? いつも言われた場所で待ち合わせて食事したり映画見たり、買い物したり……帰りは俺の家まで送ってくれた。  だから俺は優吾さんの家は知らない。  血液型も知らない。好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は? 兄弟は? 家族は? 友達はどんな人がいるのかな。 「俺たち恋人同士なのに……」  相談して気持ちが晴れるどころか益々落ち込んでしまった。  もう泣きたい。  晋哉は今までに見たこともないような哀れみの目で俺を見ている。そうだよな。こんなのきっと、かける言葉も見つからない。

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