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12 出会い
俺と優吾さんの出会いはバイト先だった。俺が週三回入っていた近所の居酒屋。居酒屋と言っても常連のじじいしか来ないような小さな店だ。カウンターが六席、テーブル席が四卓、小上がりの席が三卓。だからホールには三人もいれば十分回る。マスターも家がすぐ裏だからか、店をバイトに任せてちょいちょい家に帰ったりしていた。そんなだから俺は結構気楽にやっていた。
ちょうどその日は週末なのに一人欠勤で、珍しく忙しくなってきてイラつきながら仕事をしていた。
ここに来る客は年配の常連ばかりで、俺が無愛想に接客していても何も言わない。知った顔の客達に可愛がってもらっていたからオーダーが遅れても「気にすんな」と言って怒られることもなかった。
「ちょっと君……」
クソ忙しい状況で、わざわざ服の端を引っ張り俺を呼び止めた客を振り返ると、この店には珍しい身なりの良い若そうな客だった。初めて見る顔だな……いつ来たんだろう? なんて思いながら無愛想に「何すか?」と俺は応えた。俺の態度が悪かったのか、怖い顔で睨まれてしまった。
「さっきから呼んでる。ビール二つ、早くね」
連れの顔も見たけどこっちも初めての客だった。二人とも周りの客とはちょっと違って若くて格好よかった。
まぁ、最初の印象はそんなもん。
こんな忙しいのに「早くね」なんてふざけてやがる。俺は苛々気分マックスでカウンターに入っているもう一人のバイトにビールを頼んだ。
しばらくして注文のビールをテーブルに運ぶと、その客は話に夢中で俺に気がつかない。普段ならそんなの気にもとめずにテーブルにビールを置くけど、その時に限っては俺は黙っていられなかった。さっき睨まれたのもあるし、クソ忙しいのに早くしろなんて言われてムカついてたんだと思う。「ありがとう」のひと言くらい欲しいと思ってしまったんだ。態度悪くて生意気な店員だよな。でもその時はそんな事微塵も思っていなかった。
「お待たせしましたビールです!」
殆ど棒読み。わざと乱暴にジョッキをテーブルに置いた。置いた弾みでビールが溢れ、男の袖口に少しだけ跳ねた。アッて思ったけどシカトして戻ったら、連れの方が「ありがとう」と言ってくれた。
だいぶ客もはけてきて、そろそろ自分も仕事を上がる時間だ。俺はカウンターの中に入り、オレンジジュースに口をつける。仕事中だけどマスターが「喉乾いたら好きに飲んでいい」と言ってくれてるから、客がいても俺は気にせず飲んでいた。今までだってずっとそう。ゴクッとひと口飲んだところでさっきの客と目が合った。ジッと俺を見つめる目線に落ち着かなく目を逸らす。常連の客に「公ちゃんまたな〜」なんて挨拶をされ、俺も「気をつけて帰れよ〜」とか言いながら後片付けをしていると、いつのまにか目の前のカウンター席にそいつが座っていた。
「……お勘定お願い」
「………… 」
黙って伝票を受け取りレジを打つ。さっきはちょっと気が立っていて態度が良くなかったな……そう思い直し顔を上げ、謝ろうと口を開いたら先に男が声をかけてきた。
「君はアルバイト? 高校生かな?」
「……はい」
怒ってるかな? と心配だったけど男は笑顔だったからちょっとホッとした。
「君、仕事をナメすぎ。アルバイトだからって、高校生だからって、客を相手にしてんだからもっと愛想良くしなきゃダメじゃん。それと、グラスの置き方教わらなかったの? あんな音立てて乱暴にして……見てごらん、俺の袖シミになっちゃったよ? わかる? こういう事で客が来なくなるんだよ。バイトだろうが社員だろうが客には関係ない。店に出てるからにはもっと真面目にやりなさい」
──前言撤回。
この人笑顔だけど目が笑っていなかった。でもちゃんと謝ろうと思ってたのに説教されて悔しかった。「今謝ろうと思ってたのに!」なんて言いそうになる。子どもかよ……
俺は何も言えずに釣りを渡した。
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