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13 嫌い?

 次の週もその客は飲みにきた。今度は一人で。  やっぱりここの常連のじじい達と違って若くてカッコいい。何をするにもスマートで、でも気取っていない。とても社交的なのが見ていてわかる。すぐに他の客とも打ち解けて楽しそうに呑んでいた。  先週のこともあり俺は少しだけ気不味かった。多分この客はそんな事ちっとも気にしてないのだろう。先週と違ってこの日はさほど混んでいなかったから、俺も客と一緒にお喋りする余裕があった。それでもあの客のところは意識的に避けてしまう。こうやって気にしてる時点でカッコ悪いのもわかっていた。わかってるけどそうする以外考えられなくて、俺は必要最小限の接触だけでその日は仕事をこなした。 「公ちゃん、今日は賄い食ってくんだったよね?」  厨房に繋がってる暖簾の隙間から声がかかる。厨房を切り盛りしてるのも大学生のアルバイト。いつも最初に賄いを食べていくか聞かれ、仕事終わりに食べていく。その日の店の混み具合で少しだけ休憩をもらえることもあった。 「今日は暇だし、順番に休憩入りなよ」  そう言われた俺は、ホールのもう一人と順番に休憩に入る。休憩と言っても厨房で五分から十分くらい、座って飲み物をもらう程度。でも俺は短い時間だけどここで厨房のお兄さんとお喋りするのが好きだった。客のじじい達と違って歳も近かったし話しやすかったから。 「今日の賄い何? もう腹減っちゃったよ」  ビールケースに段ボールの切れっ端を座布団がわりに乗せ簡易の椅子を作り、調理の邪魔にならない隅っこで腰掛ける。ここなら暖簾の隙間からホールの様子も見えるから丁度良い。 「焼きそば作ってあるから……公ちゃん焼きそば好きだったよね?」 「うん、俺ここの焼きそばめっちゃ好き! 楽しみ!」  ジョッキに烏龍茶を入れてもらい一息ついていると、視線を感じた。視線の先に暖簾から顔を出しこちらを覗いているあの客と目が合いギョッとする。酔っ払ってるのか目が合ってもニコニコとしていて戻ろうとしない。 「すみません、お客さん……トイレっすか? それならこっちです……」  しょうがないからそう言って出て行くと「いや、そうじゃない」と言いふらふらとカウンターの席に戻って行った。  なんなんだ? そんなに量は飲んでないはずなんだけどな。先週の様子からして酒が弱いようには見えなかったけど。ちょっとだけ不審に思ったものの、俺は休憩に戻った。 「なんか覗かれちゃったね。あのお客さん先週も来てなかったけ? 若い客、この店じゃ珍しいよね。愛想良いし人当たりよさそうで俺は好きだなああいう人。常連にならないかな」 「……俺はちょっと苦手かも。先週ヘマやって怒られちゃったし」  そう言ったら、いつもはじじい達に甘やかされてるからよかったじゃんと言って笑われてしまった。  短い休憩も終わり俺はホールに戻る。入れ違いでもう一人も休憩に入るから、少しの間俺ひとりで全体を見ることになる。まあこの客の数ならどうってことはないんだけど、それよりも何でこの人はここに座ってんだろうな…… 「あの、お客さんあっちの席でしたよね? 勝手に席変わんないでくださいよ」 「いいじゃん、店狭いんだし客も少ないからちゃんとわかるでしょ?……ねえ、思ったんだけどさ、前回から俺に対して冷たくない? 俺のこと嫌い?」  カウンター席のど真ん中に座り、わざとらしく上目遣いで俺を見る。  嫌い……じゃない。苦手。俺はこういうタイプの人とは関わったことがないから。初対面の人にもこの距離感で接してくるのも慣れなくて戸惑ってしまうしどうしても意識してしまう。  怒られて苦手に感じるのはしょうがない。でもこの人、カッコイイじゃん?   ドキドキしちゃうのもおかしいだろ……

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