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14 お誘い

「公ちゃんはさぁ、十時で上がってからさっきの所でご飯食べて帰るの? 焼きそば好きなの?」  俺にウイスキーのお代わりを頼みながらそう聞いてくる。いきなりの公ちゃん呼びに戸惑いしかない。 「さっきの聞いてたんですか? そうですよ、バイト後に厨房で賄い食って帰ります。てか公ちゃんってやめてください」 「良いじゃん、みんなそう呼んでる。ねえ、公ちゃん?」  本当に酔っ払ってるのかな? 楽しそうに何度も何度も「公ちゃん」と呼んでは、カウンターからわざわざ身を乗り出し俺の腕をポンポンと叩く。こんなちょっとしたスキンシップに嬉しく思う事にも戸惑ってしまった。  なんだよ、調子狂う。 「やめてください。公敬です。公ちゃんじゃなくて俺は公敬!」  何となく、ここの常連達と同じに呼んでほしくなくて、自分の名前を名乗ってしまった。 「公敬……君ね。カッコいい名前だね!」 「……ありがとうございます」  自分で言っておきながら、名前を呼ばれ物凄く照れてしまった。きっと顔赤い。恥ずかしい。 「俺また来週も来るからさ、ご飯一緒に行こうよ。だから来週は賄い食べないで待っててよ。ね? いいでしょ」  いきなりそんなこと言われても困ってしまう。どうしよう。なんなのこの人……なんで俺なんかを誘うのだろう。純粋に食事に誘われたのは嬉しかったけど、こんな状況は初めてだし、友達でもないのにお客さんと食事なんて行ってもいいのか躊躇ってしまい返事に困ってしまった。 「そんな遅くならないようにするし、勿論俺がご馳走するからさ、ダメかな? 俺、公敬君ともっとお話してみたいんだよ。あ! 別に怪しい者じゃないよ、警戒しないで」  あんまりにも一生懸命に誘ってくれるので可笑しくなってしまった。たった二回の来店だけど、この人の人柄はもうわかってるつもりだし、正直そんなに警戒はしていなかった。寧ろ俺もこの人に興味がある。誘われて嬉しいと思っている時点でもう断る理由もないのだから。ただ妙に緊張してしまってドキドキするのが嫌だなって思うだけ。 「わかりました。いいですよ」 「ほんと? やった! デートだね」  冗談だよ、とこの人は笑ったけど、俺はそんな冗談にも過剰に照れてしまって何も言えなくなってしまった。  まだこの人の名前すら俺は知らないのに。  この感情は何なんだろう。とにかく俺はこの日から一週間、ちょっと色々と上の空になってしまった。きっと「浮かれてる」とはこういうことをいうのだろうと情けなかった。  約束の日、俺がバイトから上がる三十分ほど前に本当に彼は来店した。一人でカウンターに座りビールと焼き鳥を頼むと「すぐ出るから……」とスマートにメモ紙を渡された。そこには携帯の番号とこの店からすぐ近くのコンビニの名前が書かれていた。 「そこで待ってるからね。急がなくていいから」  そう言って頼んだ焼き鳥をペロッと平らげ、本当にすぐ会計を済ませて出ていってしまった。  彼の後ろ姿を眺めながら、あぁ本当に行くんだ……と今更ながら緊張した。

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