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16 告白

「あれ? 橋本は? トイレ?」  電話を終えて優吾さんが戻ってくる。今度は優吾さんと二人っきり。優吾さんは何故かさっきまでの席ではなく俺の隣に腰かけた。 「何か用事があるとかで帰られましたよ」 「………… 」  橋本さんが帰ってしまったのが面白くなかったのか、優吾さんがちょっと不機嫌に見えて俺はどうしたらいいのかわからない。もう時間も遅いし、ここでお開きでもいいんだけどな。 「なぁ、公敬君、何で敬語なの? さっきまではちょっと砕けて喋ってたじゃん。いいよ、いつも友達と喋る感じで。てか俺と一緒だと緊張するの?」  優吾さんの不機嫌の理由、俺の態度のせいだったのかな。俺は小さく「すみません」と謝った。ぷうっとワザとらしく口を膨らませ、優吾さんは俺の顔を覗き込んでくる。  ……待って、顔、近いから。 「……!?」  ドキっとしたのもつかの間、事もあろうに優吾さんは俺の頬にキスをした。 「なっ! 何してんの?」 「高校生にキスしちゃった。ほっぺすべすべだね。公敬君はあんまヒゲ伸びないの? 可愛い」  そういうことじゃない。やばい、心臓うるさい……  たかだか頬にキスくらいで。  でもキスなんかされたの初めてだ。 「公敬君、顔真っ赤! そういう反応してくれると嬉しい……公敬君、俺のこと好きでしょ?」  唐突に手を握られ、嬉しそうな優吾さんの顔がまた近づいてくる。もうどうしたらいいのかわからない。  優吾さんのこと……好き?  うん、好きだよ。でもよくわからない。 「公敬君は恋人いたことある? 彼女は?……今まで誰かに恋したことある?」  矢継ぎ早に質問され、俺はただただ首を横に振り続ける。そして優吾さんは俺の手を握ったまま耳元で囁いた。 「公敬君をこんなにドキドキさせたのは俺が初めてでしょ? 俺と付き合ってよ……好きだよ」 「……!」  髪の毛で隠れている耳を指で退かし、わざと耳に息を吹きかけるようにして俺に囁く。ゾクッとして慌てて優吾さんから離れようとしたら抱き寄せられてしまった。 「君が好き……一目惚れ。嘘じゃないよ……」 「え……っと、でも……俺、男……」  キスされそうなくらいお互いの顔が近いし、しっかり腰を抱かれてしまっていて逃げられない。  何でこんなことになってるんだ?  俺、からかわれてるのかな。だとしたら、ちょっと悲しい。 「男なのは重々承知。君だからいいんじゃないか。公敬くんだって男の俺のこと、好きなんだろ?……わかってるよ。大丈夫。素直になって…」  じっと見つめられ、緊張と嬉しさで訳わかんなくなって思わず涙が溢れる。  そう……優吾さんの言う通りだった。  俺は女の子を好きになった事がない。勿論男も。でも優吾さんに対する感情は初めて経験する気持ち。 また店に来てくれる、一緒に食事に行けるって思った時の高揚感は今までにない感情だった。  きっと好きなんだ。  男が気になる……好きだなんておかしいんじゃないかって、そう思って本当は認めたくなかった。 「……好きでしょ?」 「はい……好き……です」  あまりに積極的な優吾さんの押しに負けて俺は自分の感情を認めてしまった。いやもうこんな状況じゃ認めざるを得ないよな。もう鼻と鼻、くっ付いちゃってるじゃん。恥ずかしすぎるし、でも離れらんないし……  そんな距離で優吾さんは更に俺に囁いた。 「好きならちゃんと態度で示して……」  そんな顔、そんな風に言われたらもうこうするしかないよね。  俺は恐る恐る、優吾さんの唇に自分の唇を重ねた──

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