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18 女
俺が優吾さんを見間違うわけがない。
でも俺の目に飛び込んできた優吾さんの姿を信じたくなかった。
「……公敬? おい、聞いてる? ちょっと? カラオケ! 行くのか行かないのかどうすんだって……」
晋哉に顔を覗き込まれハッとする。全然晋哉の話を聞いてなかった。カラオケ? 俺が? カラオケなんて行きたくない。
いや、そんなことより優吾さんだ。
赤信号が青に変わり、こちら側に渡ってくるのは間違いなく優吾さんだった。でもその隣で優吾さんの腕に張り付くようにして腕をからめて歩いている小柄な女。優吾さんを見上げるようにして楽しそうに何かを話している。優吾さんもその女に微笑みかけながら歩いていた。
……誰?
なんであんな風に腕組んでるの? それじゃあまるで恋人同士みたいじゃん。俺は頭の中がパニックになった。
恋人? 優吾さんの恋人は俺……だよな? あの女は何で恋人でもないのにあんなに馴れ馴れしく優吾さんに引っ付いてんだ?
俺だってあんな風に寄り添って歩く事なんかできないのに。
不安な気持ちと嫉妬心が込み上げてくる。体が固まってしまって動けない。口の中が乾いてくる。俺は優吾さんの姿から目を離すことが出来なかった。
「どうした? 行くぞ」
晋哉が俺の肩を叩く。幸い優吾さんと女は信号を渡り俺らと逆の方へ歩いて行ったから鉢合わせる事はなかったけど、その後ろ姿を見つめながら涙が溢れそうになった。もし優吾さんと鉢合わせてしまったら、きっと俺は動転して何も出来なかったと思う。何でもないふりをして、作り笑顔を浮かべることも問い詰めることも出来なかったと思う。だから向こうへ行ってくれて本当に良かった。
「え? マジでどうした? 公敬大丈夫?」
いい加減俺が固まってるのを心配した晋哉が深刻な顔をして聞いてきたから、堪らなくなって吐き出してしまった。
だってこんな気持ち一人じゃ抱えきれなかったから。こんな状況、経験したことがなかったから。
「俺の彼氏……女とくっ付いて歩いてた」
「………… 」
晋哉なら、晋哉ならわかってくれると信じていた。さっきまであんなに楽しそうに俺の話を聞いてくれたんだ。こんなにいい奴なら大丈夫って。思考が麻痺していた俺は縋るように晋哉に話してしまったんだ。
「は? 彼氏? 彼女じゃなくて彼氏? 公敬の相手って男? 待って……信じらんねぇ、いやいやいや……マジか。無いわ……悪い、俺やっぱ帰るね」
晋哉は今まで見たこともない冷たい目線を俺に向け、ボソボソとそう言うと行ってしまった。
一人その場に取り残される。
俺は今目の前で見てしまった事、友達だと思っていた晋哉に蔑みの目で見られた事、全部夢ならいいって本気で思った。
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