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19 電話
それからどうやって家に帰ったか覚えていない。
気がついたら俺は自室のベッドで頭から布団を被って泣いていた。窓の外はどっぷり日が暮れていてもう夜なんだとわかる。一瞬「夢だったのか」とも思ったけど、涙が勝手に溢れてくるこの状況に夢ではなかったんだと思い知らされた。
次の日俺は学校をサボった。「頭が痛い、風邪をひいたみたいだ」と仮病を使ったから婆ちゃんはすごく心配してくれ、俺のためにお粥を作って出かけて行った。仮病なんだから熱もなければ咳も出てない。風邪をひいたふりをするなんて器用な真似は俺にはできない。きっと婆ちゃんには俺がサボったんだって事はお見通しなんだと思う。それでも何も聞かずに騙されてくれ、俺のことをそっとしておいてくれる婆ちゃんには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
優吾さんは俺と付き合ってるんだよな?
もう半年くらい経つんだ。
あの親しそうな女はなんなの? 俺が優吾さんに電話して聞けばいいだけの話なんだけど、そんな事、怖くて出来なかった。
晋哉はあれからどう思っただろう。学校で俺のことを皆んなに話すのだろうか。からかうような事は晋哉に限ってするわけないと思っていてもやっぱり不安は拭えなかった。
「また一人か……」
晋哉以外親しい友人はいない。あの日はあんなに楽しかったのに。話を聞いてもらえて嬉しかったのに……つい本当のことを話してしまったけど、晋哉にしてみたらそりゃ理解できなかっただろう。晋哉の嫌悪した顔を思い出して胸が痛む。傷つけてしまったかもしれない。謝りたいけど、でもきっともう話もしてくれないんだろうな。
どうせ元々俺は友達もいなかったんだ。最初に戻るだけだ。
考えれば考えるほど寂しさが湧いて来る。大切な人を一気に二人も失った。でも優吾さんはわからない。ちゃんと確認してないから。あの女は俺が思うようなのじゃないかもしれない。ここで勇気を出して聞いてみなくちゃ、一人で悩んでたってしょうがない。
俺は意を決して携帯を見つめる。
ひと言、そうひと言明るく「女の人と歩いてるの見かけたよ。あれは誰?」って聞けばいいだけ。なにも難しい事はない。
思いっきり深呼吸してから、俺は携帯の画面をタップした──
「もしもし? 誰?」
怪訝そうな声が聞こえる。俺はもう一度小さく深呼吸をしてから「公敬です」と名乗った。途端に相手の声が明るくなる。「久しぶりだな!」と元気な声が耳に飛び込んで来て自然と頬が緩んだ。
「誰かと思ったよ。なんだよ、どうした? なんで俺に電話して来たの?」
俺の声を聞いて嬉しそうに話してくれることにホッとして泣きたくなる。
「……何かあったら連絡しろって言ったのは橋本さんじゃん」
そう。俺は結局、優吾さんに電話する勇気が出なかった。でも橋本さんから連絡先を教えてもらってたのを思い出したから、相談してみようと思ったんだ。あの食事の席から一度だって連絡はしなかった。優吾さんのことに夢中になり、寧ろ存在すら忘れていたのに……俺はなんて都合がいいんだろうな。明るく対応してくれる橋本さんに心の中で謝った。
「そうだったけ? そか、何かあったの? あ! 何かあったから俺に連絡くれたんだよね? 聞くよ?」
「………… 」
そうなんだけど、なんて言ったらいいのかわからない。それに俺なんかに親身になってくれる存在が有り難く、晋哉のあの冷たい視線を思い出し、目に涙が溜まってしまった。
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