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23 突然の
風がひゅうっと頬をかすめる。思いの外肌寒くて体を縮こまらせた。手摺から離れ車に戻ろうとしたら、ぐっと橋本さんに抱き寄せられた。
突然のことに驚いて足がもつれる。
「あっ! ごめん……」
よろけた拍子に橋本さんの胸に顔を埋める形になってしまい慌てて離れようとしたのに、何を思ったのか橋本さんはぎゅっと俺を抱きしめて離してくれない。橋本さんの腕の中は車の中と同じタバコの匂いがする。身近に感じる自分の知らない匂いに俺は少し居心地が悪くなった。
「橋本さん? ごめん、離して……」
何で抱きしめられてるのかも理解できずに俺はその場で顔を上げた。橋本さんの顔を見て、早く離せと訴えたかっただけでそれ以外何も意味はない。それなのに目が合った瞬間、橋本さんは俺に顔を近づけキスをした。
「……?!」
キスと言っても唇ではなく唇のすぐ横。それでも突然の橋本さんの行動に驚いて声も出ない。頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。抱きしめられていることもキスをされたことも、全く意味がわからなかった。驚いて固まっている俺に橋本さんはまた顔を近づけてくる。今度は唇を重ねようとしているのがわかったから慌てて俺は顔を逸らした。
「は? な、何? 何すんの? どうしたの?……って離して!」
「や〜だ、離さないよ」
わけわがからない! 橋本さんはぎゅっと俺を包み込むように抱きしめたまま、どんなに体を捩ってもビクとも動かない。橋本さんにされたことも勿論だけど、それよりこの力の差、体格差がショックで俺はすぐに抵抗するのを諦めた。
「何だよ……なにすんだよ。また俺のことからかってんの? 酷いよ……」
顔を上げたらまたキスされるかもしれないから、顔を埋めたまま俺は橋本さんに文句を言った。体がびくびくしてるからきっと笑いを堪えてるんだろう。ムカついたから橋本さんの爪先をちょっとだけ踏んでやった。
「おい、踏むなって! バカ……コラ!」
ちょこちょこと足を動かし俺から逃げる橋本さん。面白いからしばらく橋本さんの足を踏んづけてむしゃくしゃを晴らした。
俺をからかって満足したのか、それとも俺に足を踏まれるのがいい加減嫌になったのか、やっと腕の中から俺を解放してくれた。橋本さんの靴、高そうだもんな。調子に乗ってちょっとやり過ぎちゃった。俺の踏み跡で真っ白になった爪先を見てちょっと申し訳なく思った。
「全くもう、君ったらなんてことしてくれるんだ……」
「だって、元はと言えば橋本さんが悪いんじゃんか……なんであんな事すんだよ。びっくりするじゃん。なんなの?」
笑いながら橋本さんは俺の頭をクシャッとする。
「なんなの? じゃないよ。危機感無さすぎ。本気で心配になっちゃうよ。公敬君全くわかってないだろ?」
そう言いながら俺の肩を抱き、顔を寄せてくる橋本さん。さっきのがあったから俺はキスを警戒して顔だけ避けた。でも危機感って何? だって橋本さんは優吾さんの友達だし、いい人だし……何を警戒する必要があるのだろう。俺は本気でよくわからなかった。
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