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24 油断は禁物
「ほらキョトンとしてる。公敬君みたいな可愛い子、そんな無防備でひょいひょい着いて来ちゃったらすぐ悪い人に食われちまうぞ?……男だからって油断しちゃダメだと思うな」
「は? 別に可愛くねぇし、橋本さんいい人じゃん。何で警戒しなきゃいけねえの? 食われちゃうって何だよ」
ガキ扱いされたように感じ、ムッとして強がってみたらすぐに橋本さんに抱きつかれ、あっという間にさっきの手摺まで追い込まれてしまった。ビクともしないし、このまま押されたら手摺から落っこちそうだ。
「ちょっ……待って、危ねえって……やだ、苦しい……橋本さん? やめて!」
上半身が仰け反り、足が浮く。俺の首筋に顔を埋めている橋本さんの表情はわからないけど、怒らせたのか何なのか、身の危険に変わりない。自分の力じゃどうにもならず恐怖でしかなかった。
「あっ! やだ! 何すんだよ!……んっ……触んなっ」
橋本さんの手がおもむろに俺の股間に伸びてくるのがわかる。さわさわと弄られ、首元に違和感を感じて顔を背けるとべろっと舐められてしまった。
「やだ……ごめんなさい、もうやめて……怖い……橋本さん、やだ……」
落ちないように橋本さんにしがみつく。なんかちんちん触られてるけど、それよりも自分の力じゃどうにもならないことの方が怖かった。
橋本さんは俺が謝って泣きそうになってることに焦ったのか、慌てて俺から離れてくれた。橋本さんが離れたことで急に夜風に晒され体がゾクッと震え、寒さなのか恐怖心なのか、寒気を誤魔化すように俺は両腕を摩った。
「ごめんな、ちょっとやり過ぎた」
「やり過ぎたじゃねぇよ! 何なの? さっきから酷いよ! 俺の事からかってそんなに楽しい?」
言いながら、悔しくてやっぱり涙が出そうになって、慌てて橋本さんから見えないように後ろを向く。これ以上みっともない姿を晒すのは嫌だった。
「そうじゃない、あまりにも無防備な公敬君が可愛かったから……つい抱きしめたくなっちゃって。ほんとごめん」
言いながら橋本さんは俺の頭を優しく撫でる。「こっち向いて」と言われ顔を向けたら掌で俺の目元をそっと拭ってくれた。
「ごめんね。そろそろ帰ろっか。遅くなっちゃったね」
ちょっと寂しげに橋本さんはそう言うと、俺の手を取り車に向かう。車の中では特にこれ以上話すこともなく、俺は黙って窓の外を眺めていた。
「今日はありがとうございました」
途中から俺の案内でしっかり家の前まで送ってもらった。車を降り、まだ気分が晴れなかったからわざとぶっきらぼうにお礼を言った。まぁ、相談に乗ってもらったのは感謝してるし。ドライブでのことはムカついてるけど……
「あと! 俺可愛くねぇから! 可愛いとかもう言わないでくれる?」
そう。優吾さんも俺の事「可愛い」って言うけど、そりゃイラッともするけどこんなに腹が立ったりはしない。好きな人だから、かな。でも橋本さんに言われるのはなんだかすごく嫌だった。ずっと車の中でもモヤモヤしてたんだ。きっとガキ扱いされるのが嫌なんだろうな。この人から見たら勿論俺はガキなんだろうけど、わかってるけど言わずにはいられなかった。
「はは……わかったよ。ごめんな。でもほんと、もう少し君は警戒心を持った方がいい。心配になっちゃうよ」
「うるせえよ。もうそれはいいから。送ってくれてありがとう」
俺は橋本さんの言葉を遮るようにしてそう言いながら、バイバイと手を振り家に入った。
明日はちゃんと学校に行こう──
嫌な思いもしたけど、やっぱり橋本さんに話せた事でだいぶ気持ちがスッキリした。
今日はもう遅いから、明日学校から帰ったら優吾さんに連絡をしてみよう。
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