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25 疑問

 次の日俺はいつも通り学校に行った。  教室に入ると何人かが俺に視線を向ける。でもチラッと見るだけ。俺がここにいないかのように、そのまままた友人同士お喋りを続けている。休んだからといって誰も俺のことなんか気にしない。どうした? 風邪か? なんて心配してくれるような友達だって俺にはいないのだから。  俺は鞄を置き自分の席に着く。視線の端に晋哉の姿が見えたけど、晋哉もいつも通りに何人かの友人と楽しそうにお喋りをしていて俺の事は気付いてすらいないようだった。楽しそうに何を話してるのか……俺が男と付き合っていて恋愛相談なんてされてしまったと笑っているのか。勝手にそう考えてしまって、正直怖くて晋哉の方を見られなかった。  いつもなら友達と賑やかにやっていても何回かは俺のところにも来て話しかけてくれていた晋哉。でも思った通り、今日は朝から一度も話しかけられる事なく一日が終わった。  放課後、帰り仕度をしてさっさと学校を出る。以前はあまり感じなかったけど、やっぱり晋哉に仲良くしてもらってからは一人でいるのが辛かった。  下駄箱から靴を取り、穿きながらなんとなしに前を見ると校門の横に見覚えのある車が停まっている。横を過ぎていく生徒達が皆、その車をチラリと見ながら歩いていた。 「嘘……」  目線の先にあるその車に、ドクンと胸の鼓動が高鳴る。コケそうになりながら俺はその車の元に急いで走った。あれは間違いなく優吾さんの車。何で? どうして? と頭の中で繰り返す。もしかして連絡が来てたかな……と、走りながらもう一度携帯の画面を確認したけどやっぱり何も連絡は来ていなかった。 「優吾さん!」  運転席に優吾さんが座ってるのが見え、思わず窓を叩いてしまった。周りの視線なんてどうでもいい。俺に会いに来てくれたことが嬉しくて、昨日まで悩んでいたこともすっかり頭から飛んでしまっていた。  俺の声に、優吾さんはゆっくりとこちらを見る。笑顔を向けてくれるとばかり思っていたけど、俺を見た優吾さんの顔は怒っているようにも見えて戸惑ってしまった。 「乗って」  少しだけ窓を開けてこちらを見もせずに優吾さんがそう言うから、俺はそのまま助手席に乗り込んだ。  優吾さんは何も言わずに車を出す。窓の外に晋哉の姿がチラッと見えた。あぁ……きっと晋哉はこの車の中にいるのが俺の彼氏だってわかっただろうな。知られてしまってるんだからもういいや。 「急に来たからびっくりしちゃた……」 「急に来られたら困るのか? なら悪かったな」  最初に思った通り、やっぱり優吾さんは不機嫌そうに見えた。凄く嬉しいのに何だか気不味い。俺の顔も全然見てくれないし、言葉も棘がある気がして悲しくなる。 「何だよ。困ることなんてないし、優吾さんと会えて嬉しさしかないのに……そんな風に言わないでよ」 「公敬君さ、俺に何か言う事ないの?」  真っ直ぐ前を向いたままの優吾さんに、俺は何から話していいのか迷ってしまった。だってあの女の事もそうだし、ずっと連絡くれなかったのもそうだし、優吾さんと付き合ってるのに俺は何も知らなくて……ここ最近は不安しかなかったんだ。 「公敬君は俺の恋人だよね?」 「……?」  信号が赤になり車が停まる。今度は俺の方をちゃんと見てくれたけど、怖い顔をしてるから言葉が詰まる。俺の恋人だよね? って……何それ、俺のセリフじゃん。 「なんなの? 優吾さんなんで怒ってるの? 怒りたいのは俺の方なのに! こっちが聞きたいよ! 優吾さんは俺の恋人でしょ? 俺……俺、優吾さんのこと何にも知らねえの何でだよ。もっと優吾さんのこと……知りたいよ」  カッとなってつらつらと言葉が出てしまう。感情的になるのはみっともなくて嫌なのに、でも悔しいけどしょうがない。 「俺、優吾さんの恋人……でいいんだよね?」  あの女は誰なの?

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