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26 晴れた誤解

 自分で言ってて情けなくなってくる。何が「俺、優吾さんの恋人だよね?」だよ。  自信なさ過ぎ……  でもここまで言っちゃったならもういいや。 「俺、優吾さんに遠慮して大事なこと何も聞いてない。優吾さんが好きなのに、何の仕事をしてるのかとか、家族のこととか……彼女……女の恋人がいる、とか……」 「えっ? 彼女ってなんだよ。そんなのいるわけないじゃん」  優吾さんのその言葉で、ここ一番しんどかった思いがすっきりした。そうか、あれは彼女じゃ無かった、浮気でも無かった。でもだったら何なんだろう。あの馴れ馴れしい女は。    信号が青になり、また車が走り出す。そういえば、優吾さんはどこへ向かってるんだろう。 「何で急にそんなこと言い出すの? 俺が浮気でもしてると思ったの?」  優吾さんが笑顔になった。少しは機嫌が直ったたみたいで俺はホッとした。 「この前、一昨日だけど優吾さん見かけた。そんで女と腕組んで歩いてるの見ちゃった……」  ちゃんと否定してくれるんだよね? 俺は期待して優吾さんの顔を見る。俺の問いかけに優吾さんが小さな溜息を吐いたのがわかり、ちょっと胸がチクっとした。 「多分公敬君が見たって言うのは仕事のパートナーだな。あれはちょっと馴れ馴れしいんだ。付き合いが長くてね。パーソナルスペースって言うの? 狭いんだよね。誤解させたならごめん。あいつにも注意しておく」  ちゃんと謝ってもらえて嬉しい。でも小柄で可愛らしい人だったな。こういうのをヤキモチって言うんだ。きっと優吾さんのさっきの溜息は、俺のヤキモチに対して「面倒だ」って思ったからだ。面倒臭い奴だなんて思われたくない。ただでさえ俺は優吾さんと比べたら子どもなんだ……  気をつけなきゃ。 「ごめんね。疑って」 「いいえ、こちらこそ。誤解させてごめんな」  運転しながら優吾さんは俺の手を握る。スリスリと指を絡ませてきたから俺もお返しに指を絡ませる。久しぶりの優吾さんの手、優吾さんの匂い、誤解も解けてやっと気持ちがデートモードに切り変わる。優吾さんが突然学校に来たのも初めてのことだし、どうしたのか気になるから聞いてもいいよね? 「今日は何で学校に来たの? ずっと連絡もなかったから忙しいのかと思ってた……気分が落ちてたから来てくれて凄え嬉しかったよ。ありがとう」 「………… 」 「優吾さん?」  俺の手を握ったまま優吾さんは黙ってしまった。何か変なことでも言ったかと思い、不安になって優吾さんの顔を覗き込む。 「公敬君が嬉しいって思ってくれて俺も嬉しい。今日は俺の家に行こうか? 夕飯も一緒に食べよう」 「優吾さんち? うん! 行きたい! いいの?」  突然の申し出に嬉しくて思わずでっかい声が出てしまった。そしてもう目的地に着いたのか、車は高層マンションの地下駐車場に入って行った。 「もしかしてここ?」  さっき外観を見たけど、俺はこのマンションを知っていた。バイトから帰る電車の中からいつも見ていた高層マンション。多分そこ。まさかいつも見ていたここに優吾さんが住んでいたなんてびっくりだった。 「意外に近いところにいたんだね」  俺は優吾さんのことをまた一つ新たに知ることができて嬉しかった。

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