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28 不機嫌
「何? 痛いよ離して……」
びっくりして俺は優吾さんの手をパッと払う。ちょっと後ろに下がるとすかさず優吾さんに捕まってしまった。
「何? じゃないよ。俺に言わなきゃいけない事あるだろ。とぼけるなよ」
何だろう。俺が聞きたかったことは優吾さんが言ってくれて解決したし、あれ? もしかして橋本さんの事かな。でも俺が橋本さんに優吾さんとのことを相談したのは言いたくなかった。
「何のこと?……俺、わからないよ」
言いたくなかったから、わざとしらばっくれてみる。正直に「俺が橋本さんに相談したこと?」と聞いて、そうじゃなかったらわざわざ自分でバラすことになっちゃうから。
優吾さんは俺の頭をひと撫でして「昨日の夜は何してた?」と聞いてきた。
「………… 」
やっぱり昨晩のことだった。
橋本さんが優吾さんに話しちゃったのか。何だよ、橋本さんのお喋り! とムッとしてたら「早く答えろ」と優吾さんに睨まれてしまった。
「あ、橋本さんと会ってた。その、優吾さんの事、色々聞きたくて……」
むすっとしたまま何も言ってくれない。コソコソしてたのが嫌だったのかな。でもしょうがないじゃん、優吾さんに直接聞けなかったから橋本さんに頼ったんだ。
「ねえ、あんま悪いと思ってないよね? 公敬君、あいつに何された? 俺に黙って二人っきりで会っちゃってさ、俺は浮気されたのかな?」
「浮気じゃないよ! 違うよ!」
俺が浮気してたなんて、まさかそんな事言われるとは思わなかった。でも優吾さん怖い顔してるし勘違いさせちゃったのかも……俺は自分が優吾さんが他の女と親しそうにしているのを見て物凄い不安だったことを思い返し、申し訳ない気持ちになった。
「本当に何でもないから。俺が相談に乗ってもらっただけだから。ごめんね」
「それだけじゃないよね。体触られたよね? 凄い不愉快なんだけど。公敬君、隙だらけなんじゃないの? 今日は一緒に食事って言ったけど、その前にお仕置きしないとだからね」
お仕置き……?
「ほら、まずはちゃんと俺に謝って。公敬君からキスして」
優吾さんに言われ、俺は小さく「ごめんなさい」と言ってから、優吾さんに抱きつきキスをした。
「じゃ、バスルームとトイレはあっちね。玄関入ってすぐの所、右に扉あったでしょ。必要な物もバスルームに置いてあるから好きに使っていい。次会う時はセックスするって言ったよね? ちゃんと自分で準備できるよね?」
早く行けと言わんばかりに、グイッと体を押されてしまった。
何だよ急に……優吾さんの冷たい物言いと態度に、胸の奥がモヤッとなる。
そりゃ、前に会った時そう言ってたけどさ、急に来られて突然そんなこと言われて、まだ心の準備ってものができてない。勿論ちゃんと調べてたし、多少なりとも自分で弄ったりしてみたし、準備だってできるけど……
「………… 」
「早く!……あ、でも慌てなくていいからちゃんと準備してきてよね」
ちょっとは優しい言葉でもかけてもらえるかと思ってその場にとどまってみたけど、やっぱり怒っているのか睨まれてしまった。
こんな風に優吾さんとエッチすんの、なんか嫌だな。そう思ったけど怒らせてしまったのは俺なのだからしょうがないと、優吾さんに言われた通りバスルームに向かった。
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