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29 緊張
玄関の横に扉があり、手前にトイレ、奥には広いバスルームがあった。脱衣スペースの鏡の横の棚には白で統一されたタオル類、それと真新しいルームウエアが置いてあり、サイズ感からきっと俺のために用意されたものだとわかった。
「優吾さんのとお揃いだ……」
隣に並んでいる少し使用感のあるルームウエアを見て、思わず頬が緩む。さっきまで冷たくあしらわれていたというのに、俺って単純だな、とおかしく思った。
ちょっと手こずったけどなんとかトイレを済ませ、服を脱ぐ。人の家のお風呂はなんだか緊張する、そう思いながら扉を開けると湯船にちゃんと湯が張ってあって室内が暖かかった。いつの間に準備したのだろうか。それでも俺は湯には浸からず、急いでシャワーで体を綺麗にした。
「これ、本当に俺が着てもいいんだ……よね?」
優吾さんはさっき必要なものは置いてあると言っていたし、その通りに必要なものは全て揃っていた。だからこれもそうだと思うんだけど、どうにも真新しいものに袖を通すのが躊躇われてしまう。ルームウエアを手に取り暫く眺めてると、突然優吾さんが入ってきたからびっくりして変な声が出てしまった。
「それ、君のだよ。俺もシャワー浴びるから寝室で待ってて……」
表情なく優吾さんはそう言うと、俺の前で大胆に服を脱ぎバスルームに消えていった。俺は思うところがあったけど、そのまま着替えて寝室に向かった。
寝室で待っててと言われたけど、どこかわからずちょっと探した。リビングに接するドアが二つあったので順に開け、ベッドルームを見つけると俺はドキドキしながら中に入る。大きなベッド……なんだかこの部屋いい匂いもするし、やっぱり綺麗すぎて俺はどこにいたらいいのかわからなかった。ベッドの周りをウロウロし、なかなか優吾さんも来なそうだったので、とりあえずベッドの端っこに腰を下ろした。
「すげぇフカフカ」
掌でベッドをグッと押してみる。俺の使ってるやたらキシキシうるさいパイプベッドとはえらい違いだ。お尻でぴょんぴょん弾んでみたらちょっと楽しくなってしまい、そのまま調子に乗って寝っ転がった。
「……楽しそうだね」
いつの間にか部屋に戻って来ていた優吾さんに声をかけられ、俺はまたびっくりさせられる。なんだよもう、恥ずかしい。
目の前に俺と同じルームウエアを着た優吾さんが立っている。この人はこんな何でもないスウェットでもカッコよく着こなしちゃうんだな、なんて見惚れていると、真顔の優吾さんの顔が近付いてきた。キスをされるのかと思い薄く目を閉じたら、顔をむんずと掴まれた。
さっきも顎を掴まれたしこれで二回目。優吾さんは機嫌が悪いとちょっと乱暴なのかな。俺は痛いからあんまり好きじゃない。
「これからお仕置きするって言ったよね? 呑気な顔して大丈夫?」
「なんだよ、呑気な顔って。ひどいや」
優吾さんが隣に座ったから、俺は少しだけ体を寄せる。いよいよ俺は優吾さんとセックスするのか……と思ったらやっぱり緊張してくるし、ちょっとでも優しくされたかったから、精一杯の甘えのつもりで遠慮気味に体を預けた。
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