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33 スタートライン

 俺は高校を卒業した──  卒業式はあっけなく終わり、これといって友達もいなかった俺は式が終わり次第さっさと一人で家に帰った。  別れを惜しむ友達もいない。卒業を祝ってくれる両親もいない。でも俺には育ててくれた婆ちゃんがいる。今日は婆ちゃんがお祝いだと言って、普段より気持ち豪華な夕食を用意してくれていた。 「おめでとう」と婆ちゃんは俺にプレゼントの箱を渡す。開けてみたらちょっと地味なネクタイが入っていた。就職祝いだと言うけど、俺の就職先はここから二駅先にある地元の企業の工場だ。ネクタイなんて最初の研修時にしかする機会はないかもしれないけど、俺の卒業と就職を心から喜んでくれた婆ちゃんに感謝してありがたく受け取った。  静かに夕飯を終え部屋に戻る。卒業して何日か休みはあるものの、すぐに三日間の新人研修がある。先日届いた研修の案内をぼんやりと眺めながら、いよいよ独り立ちをするスタートラインに立ったんだという実感が湧いた。  部屋の端に掛かっている新しいスーツ。優吾さんがお祝いだといってプレゼントしてくれたスーツだ。どうせ研修時にしか着ないから安物でいいんだと言ったのに、いずれ使うかもしれないし、お祝いの気持ちなんだから受け取りなさいと、わざわざ俺のためにオーダーメイドで二着も作ってくれた。スーツだけじゃなく、靴やワイシャツ、勿論ネクタイもプレゼントしてくれた。仕立て上がったスーツに袖を通した時は優吾さんもいっぱい褒めてくれて、俺は少し大人になった気がして嬉しかった。先程婆ちゃんから貰ったネクタイを取り出し、ハンガーに掛かっているスーツと一緒にそれも掛けた。    研修当日の朝、俺は身支度を整え鏡で自分の姿を眺める。  高校の制服と違って、これだけで随分と大人びて見えるもんなんだな……と自画自賛。婆ちゃんから貰ったネクタイも勿論着けた。何度も練習したからネクタイだってスムーズに着けられる。朝御飯もしっかり食べて、そして嬉しそうな婆ちゃんに玄関先まで見送られ俺は研修場所に向かった。  優吾さんとはあの初めての日から何度か会った。勿論卒業と就職のお祝いもしてくれた。  でもセックスをしたのはあの時だけ。  デートの別れ際に、ちょっとだけいやらしいキスをしたのが数回。はっきり言って何の進展もない。まあ、優吾さんも忙しいのだろうし、俺もこれからの事で結構頭がいっぱいで余裕が無かったのもあるから、この現状に特に不満はなかった。ただ、この研修が終わったら久しぶりに優吾さんと会いたいな、と思って、俺はその旨だけ簡単にメッセージを残しておいた。  もう遠慮なんかしないって決めた。だって俺たちは恋人同士なんだから。  会いたかったら自分からちゃんと伝える。  もうひとりで勝手に悩んだりしない、素直になるんだって決めたから。  優吾さんと対等になるために、前だけ向いて進んでいくんだから──

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