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34 ずっと先の未来まで

 俺が仕事を始めて半年。  俺の勤務先の工場は三交代制で、夜勤になってしまった週などはなかなか優吾さんとも会うことができず、それでもこれまで時間を見つけては仕事帰りにご飯を食べたりレイトショーを二人で観たりして、頻繁ではなかったけど少しづつデートを重ねて来た。  今日は一日休み。もちろん優吾さんも休みで俺たちは久しぶりの一日デートを楽しんでいた。 「今日は一緒に来てほしいところがあるんだ」  ちょっと遠出をしてランチをする。その時優吾さんにそう言われ、このあとその場所に寄ってもいいかと聞かれた。  優吾さんは突然思い立って行動をしたり、俺に対してサプライズ的な事をすることが多い。急に予定が変わったり驚かされることなんてしょっ中だった。だけどこの日のこれは俺にとって嬉しすぎるサプライズだった。 「優吾さん……ここは?」  車で地元に戻る道中に立ち寄った住宅街。道も新しく、綺麗に整備された舗道や若い樹々が並ぶのを見ると新興住宅地だとわかる。優吾さんは何も言わず、徐に一軒の家の前に車を停めた。 「さ、到着。公敬君降りて」  言われるがまま俺は車を降りた。  誰の家だろう……?  優吾さんの知り合いかな? 人と会うなら先に言っておいてほしかった。俺は少し人見知りのところがあるから、こういうのは心の準備をするために前もって言っておいてほしいのに。  そんな事を考えながら、ちょっと不機嫌に車を降りる。優吾さんはそんな俺のことなど気にもせず、さっさとその家のドアの前に歩いていった。 「え? ちょっと……待って」  てっきり呼び鈴を鳴らすのかと思っていたのに、優吾さんは持っていた鍵でドアを開けてしまった。どういう事かと戸惑っていると、優吾さんは玄関でスリッパを出しながら「早くおいで」と俺のことを手招きした。 「お邪魔します……」  勝手に入っちゃって大丈夫? と、優吾さんに誰の家かと聞こうとしたら「ただいま、でしょ?」と悪戯っぽく笑われた。  優吾さんに手を引かれ家の中を進む。玄関を入ってすぐの扉の奥は広々としたリビング。広々……といっても家具も何も無くガランとしていた。 「え? ここってもしかして」  まだ誰も住んでいなそうな空っぽの家。楽しそうな優吾さんの顔を見てピンときてしまった。そうだよ「ただいま、でしょ?」って言ったよね? そういうことだよね? 驚きすぎて胸が弾む。 「そう! どう? 気に入ってもらえると嬉しいんだけど」  嘘みたいだ。  卒業したら一緒に住もうと言われていたけど、今の今までそんな話全然してこなかったし、そもそも一緒に住むと言ったら、アパートとかマンションなんかのイメージしか持ってなかった。 「まさか一軒家だとは思わなかった……」 「だって長く住むんだもん。周りの環境とか色々考えたらここがいいなって思ってね。気に入ってくれた?」  長く住む。  優吾さんの中で俺の存在がずっと先の未来まであるのだとわかって凄く嬉しかった。こんな素敵なこと、俺が気に入らないわけがない。 「気に入ったよ! 当たり前じゃん!……凄いや! ねえ、二階もあるよね? 見て回っていい?」  特別大きな家でもないけど、真新しい木の匂い、清潔感漂う白い壁、ちょっと今風なお洒落な外観のこの家に、俺と優吾さんが二人で住むんだ。この夢見たいなサプライズに俺は素直に喜んだ。

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