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35 友達?恋人?
二階の部屋は二人の寝室にしよう。仕事ですれ違った時はお互い別の部屋でも寝られるように、もう一方の部屋にもベッドを置こう。冷蔵庫や洗濯機などの家電は二人で時間のある時に選びに行こう。もちろんベッドなどの家具も一緒に選ぶ。住み始めるのはまだ先になってしまうけど、その間じっくりこれからのことを決めて行こう。
優吾さんがそう言ってくれ、この日以降のデートは専ら電気屋と家具屋、雑貨屋巡りになってしまった。
それでも二人のこれからを考えながら買い物をするのは、俺にとっては特別で楽しいことだった。実際のところ俺には色々と買い揃える予算も無いからほとんどが優吾さん頼みになってしまって情けないところだけれど「細々した雑貨類は公敬君が負担してね」と言ってくれたから、俺は張り切って二人で使う食器やらタオルやらを購入していた。
あの家に優吾さんと一緒に住むとわかってからは、益々夢が膨らんでいった。
仕事中でもボンヤリしてしまい怒られることが増え、どんだけ浮かれてるんだと自分でも恥ずかしくなる。優吾さんは相変わらず忙しそうだから、俺が一人でできる事はどんどんやっておこうと思い、とりあえず料理の練習から始めることにした。
一緒に住むといってもお互いの勤務時間もだいぶ違うし、新婚さんみたいな甘い生活になるなんて思わない。でも出来る家事は分担してやらないといけないのなら、俺だって料理なんかもささっとこなして優吾さんに美味しい飯食わせてやりたいって思うのが普通だよね? 婆ちゃんは料理上手だから、基本的なことくらいはしっかり教わってマスターしておこうと心に決めた。
二人の新居を見た日からだいぶ経ったある日、突然優吾さんが俺の家に来たいと言い出した。
「一応公敬君のお祖母さんにご挨拶しておきたいからね」
笑顔で話す優吾さんの言葉に俺は固まる。
挨拶って?
俺と優吾さんが恋人同士で、これから二人で同棲を始めます……ってそういう事? そういう事を婆ちゃんに報告したいって事? 俺は正直、婆ちゃんにも誰にも自分のことをカミングアウトをするつもりはなかったから、優吾さんのこの言葉に動揺を隠せなかった。
「あれ? もしかしてまだ俺の事話してないの?」
「……話してない。いずれ家を出るってことは話してあるけど……」
狼狽えてる俺を見て優吾さんが顔を覗き込んでくる。その顔が、俺が話してないことに腹を立ててる感じではなく、優しい眼差しだったから少しホッとした。
でも話すって、優吾さんは友人じゃなくて恋人だよ、という事だよね? そんなの話せるわけないじゃないか。
言葉を濁した俺に優吾さんは優しく笑う。小さくうんうんと頷いてから、わかった……と呟いた。
「公敬君はお祖母さんには自分の事を話すつもりはないんだね?……カミングアウトは、したくない?」
「………… 」
そんなのしたいわけがない。婆ちゃんは晋哉みたいな拒絶反応まではしないと思うけど、それでもあの時のことを思ったらとてもじゃないけど打ち明けるなんて怖くてできない。婆ちゃんの事を傷つけてしまうかもしれない。
「したくない……無理。ごめんなさい」
俺は何故だか優吾さんに申し訳無い気持ちになってしまい、頭を下げた。
「なんで謝るんだよ。いいんだ。公敬君が嫌だと言うなら尊重するよ、そんなの当たり前じゃないか。それなら言い方を変えようね。どっちにしたってこれから一緒に生活していくんだ。お祖母さんには俺からちゃんとご挨拶させてほしい。ね? いいでしょ?」
「……うん」
別に改まって挨拶なんかいいのに、と思ったけど、優吾さんがそうしたいと言うなら俺もその気持ちを尊重しようと頷いた。
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