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38 束の間のイチャイチャ

 ベッドルームの前でぼんやりとしていると突然優吾さんに背後から抱きしめられた。 「なにやってんの? 荷解き終わったのかな?」 「ご、ごめん、まだこれから……」  碌でもない考えを見透かされたくなくて思わず優吾さんから離れるものの、すぐにまた捕まってしまった。ぎゅっと抱きすくめられるのはやっぱり嬉しいから、俺はすんなりと抵抗をやめる。そしたらそのまま押されてベッドの上に転がってしまった。 「一人でベッド見つめてニヤついちゃって、いや〜らしい。何考えてたの?」  意地悪な顔をして俺のことを押さえつける優吾さんに見つめられ、恥ずかしくって答えられない。寝室のドアは開けっ放しだし、下の階には橋本さんだっているのに、優吾さんってば俺のこと押さえつけながらキスなんかしてくる。 「や……優吾さん待って、やだ、ダメだって……」 「やだ、やめない。公敬君もキスしてよ。新しいベッド、最初は一緒に寝っ転がりたいじゃん。んっ? もう一回チューして。ふふ……どう? このベッド気に入った? 公敬君、これ買う時興味なさそうだったけど……」  優吾さんは俺にキスの嵐をお見舞いしながら、少し不満そうにそう言った。そっか、俺が興味なさそうに見えたのか。ただ単に恥ずかしかっただけなんだけどな。 「うん、大っきいし寝心地最高だよ。優吾さんが一緒だから尚更最高……」  我ながら恥ずかしいことを口走ってしまった。優吾さんも俺の顔を見てクスッと笑う。相変わらず可愛いことを言ってくれるとかなんとか言いながら優吾さんは俺の体を撫で回した。 「あ……あっ、ん……待って……ちょっと、いい加減にしないと。橋本さん来ちゃうから」  いちゃついてくる優吾さんからどうにか抜け出し二人でベッドから降りると、もう既に部屋の入り口で橋本さんが腕組みをして立っていてこちらを見ていた。 「いくら呼んでも下に来ねえから呼びに来たのに、おっ始めるんじゃないかってヒヤヒヤしたぞ」 「しないから! いくらなんでも!」  いつからそこに立ってたんだよ。声かけてくれればいいのに。優吾さんといい橋本さんといい、はっきり言って意地悪だよね。なんとなく二人にからかわれたような気がして面白くなかった。 「もう! 俺、下行くから。二階はたいして荷物ないし、もういい」  ムッとしたまま俺は階下へ。さっきまで橋本さんが作業をしてくれていたキッチンに入るともうすっかり片付いていて、後は収納棚に調理器具や食器をしまうだけになっていた。 「なんだよ……完璧じゃん」  きっとここは俺の方がよく使うことになるだろうから、自分が使いやすいように橋本さんが出してくれた道具類をテキパキと収納していく。しばらくすると優吾さんと橋本さんが二階から下りてきて、何やら用事があるとかで橋本さんが帰るから、優吾さんが駅まで送って行くと聞かされた。 「なんだよ、一緒に引っ越し蕎麦食わねえの? ちゃんと橋本さんの分もあるのに……」  荷物の搬出から搬入まで、朝からずっと俺たちと一緒に橋本さんは引越しの手伝いをしてくれた。お礼も兼ねてリビングが片付いたら三人で蕎麦食おうと思ってたのに。 「ありがとうな。お気持ちだけもらっとく。あ、ちょっと優吾借りるね、公敬君ひとりでお留守番できるかな?」 「は? バカにしてんの? さっさと帰れば?……でもほんと、今日はありがとう。すごい助かったよ。気をつけて帰ってね」  また今度ゆっくり遊びに来てね、と橋本さんに伝え、俺は優吾さんと橋本さんを玄関の外に出て見送った。  優吾さんの車が見えなくなったところで部屋に戻る。さっきまで騒がしく感じた家がなんだか気温まで下がったように感じた。  広い家にひとりは、少し寂しいんだな──

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