40 / 128

40 初日だから

「俺、優吾さんと出会えてほんと良かったと思うよ」  二人並んでソファーに腰掛けながら、俺は優吾さんに素直にそう伝えた。  あの時優吾さんが店に来てくれなかったら……俺のことを食事に誘ってくれなかったら……そして優吾さんが俺に告白してくれなかったら。  きっと俺は友達だっていない独りぼっちで、それでもどうってことないって強がって孤独に過ごしていただろう。そんなの考えるだけでゾッとする。優吾さんのことを好きになって本当に良かった。 「優吾さん……好きだよ」 「何それ嬉しい。公敬君どうしちゃったの? すっごく可愛いんだけど」  おちゃらけて、照れ臭そうにする優吾さんがキスをしてくれた。啄むようなキスからだんだん熱を帯びた激しいキスに変わっていく。優しく俺の体を弄る優吾さんの手に意識が向かうと、途端に息が上がってしまってどうしようもなく力が抜ける。もっと触れて欲しい、そこじゃない……そんなもどかしさにイラっとするも、まだ自分の欲求を相手に伝えるのは恥ずかしくてどうしても口に出せない。きっとそんな俺のことをわかっている優吾さんは、わざと焦らすように俺の体に触れるんだ。 「あ、そうだ! お蕎麦、食べる?」  このタイミングで? 優吾さんはなんで突然そんなこと言うの? 今は蕎麦なんて食いたい気分じゃないんですけど…… 「………… 」  絶対わざと言ってるんだ。どうしようかちょっと悩む。だけどきっと優吾さんは俺に言わせたいんだろうな。 「なんでそんなこと言うんだよ……続き、してくれないのかよ」  恥ずかしいから優吾さんの胸に顔を押し付けるようにして隠れて呟く。案の定「聞こえない」と顔を上げさせられてしまい、もう一度言う羽目になった。 「蕎麦、後でいい……優吾さんとエッチなことしたい」 「え? 公敬君やらしいなぁ。俺は休みだからいいけど君は明日仕事でしょ? 疲れちゃうんじゃない?」  そんなこと言いながら、俺にいやらしく触ってくるのはそっちじゃん! その気にさせてんの優吾さんじゃん! それにあの初めての日から優吾さんとエッチなことをしていないから、今度は優しく抱かれたいと思ってしまう。お仕置きなんかじゃなくて、今度こそ幸せな気持ちで抱かれたかった。 「いい……大丈夫。優吾さんとエッチしたい。今度は優しくして欲しい」  言ってるそばから初めての時を思い出して泣きそうになる。もう恥ずかしくてどうだっていい。また焦らされて意地悪されると思ったからはっきりと言ってやった。 「俺シャワー行ってくるから! 優吾さんは上で待ってて」  ぐいっと優吾さんを押しのけて俺は風呂場に逃げ込んだ。「わかった、待ってるよ。ごゆっくり」と呑気な優吾さんの声が聞こえたから、俺は安心して準備をする。今度こそ、今度こそ優吾さんに優しく抱いてもらおう。いっぱい甘えさせてもらおう。  久しぶりに優吾さんと触れ合えると思ったら嬉しくてしょうがなかった。  今日は大切な同棲初日──  俺は急いでシャワーを済ませ、優吾さんの待つ二階の寝室へ向かった。

ともだちにシェアしよう!