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44 新しい生活

「あ! 公敬君おはよう」  リビングの扉を開けるとキッチンに立つ優吾さんの姿が目に飛び込んで来た。 「おはよう。え? 何してんの?」 「何してんのって! 朝ごはん作ってるに決まってるでしょ?」    確かに優吾さんはルームウェアの上からエプロンをつけ、何やらフライパンを揺すっている。初めて見る料理をしている優吾さんの姿! と喜びも束の間、焦げ臭さに我に返った。 「なんか焦げてる? 優吾さん!」  フライパンの中には黄身の崩れた目玉焼きが二つ。白身の部分がチリっと軽く焦げていて、これ以上焼くと酷くなるから慌てて皿に移した。でも焦げ臭かったのはこれではなく、オーブントースターに入れっぱなしの食パンだった。これは見事に焦げていて食べられそうにない。シュンとしている優吾さんに思わず笑ってしまいそうだったけど、グッと堪えて俺は優吾さんにかわって簡単にサラダを二人分作った。  少し焦げた目玉焼きと焼き直したトースト。そして俺が作ったサラダをテーブルに並べる。途中で気が付いたんだけど、シンクの中に焦がして失敗したであろう目玉焼きの残骸と、炭のようになったパンが捨ててあった。 「優吾さんってさ、もしかして料理したことない?」 「……うん。公敬君今日は仕事だからさ、目玉焼きとトーストくらいはできるかなって思って」  料理なんてまるでやったことのない優吾さんが、俺のために朝食を用意してくれようとしてくれたのが凄く嬉しかった。 「失敗しても食べられるところもあるんだから、むやみやたらに捨てちゃダメだよ? 勿体ない。せっかく優吾さんが作ってくれたの、焦げてたって俺、食べたかったな」  そう言ったら優吾さんは照れ臭そうに小さく笑った。  朝食を食べながら、これからのことを話し合った。  優吾さんは一人暮らしをしていたけれど、料理はともかく洗濯もクリーニングだったり週に数回来ていたお手伝いさんに任せっきりで家事全般何もできない、やらない人だとわかった。それでも二人で生活していくにはやらなくてはいけない。出来る人が出来る時にやる、と言ってもほとんどが俺になるだろうから、優吾さんには主にゴミ捨てや掃除をやってもらうことにした。勿論、基本的には「出来る人が出来る時に」だ。  何にも出来ないくせに優吾さんが俺のために何かをしてくれようとしてくれるのは凄く嬉しいし、俺だって優吾さんのために色々してあげたいと思う。だから家事の分担が俺に偏ろうとどうってことなかった。これから優吾さんだって出来ることが増えるだろうから、その都度二人で協力していけばいいんだ。 「それじゃ、行ってきます」  今日は仕事が休みの優吾さんが玄関先まで俺を見送ってくれる。さっきからエプロンを着けっぱなしで何だか可愛い。思わずクスッと笑ったら、優吾さんは俺を見ながら自分の唇に指を置く。顎で合図をされ、優吾さんが何を言いたいのかわかった俺は、恥ずかしかったけど屈んでくれてる優吾さんに軽くキスをした。 「行ってきますのチューありがと。お仕事頑張ってね。行ってらっしゃい」  とびっきりの笑顔に見送られ、俺は仕事に向かう。  嘘みたいに幸せだった。大好きな人が側にいて、こんな風に毎日過ごせたらきっとどんなことでも俺は頑張れる。  こうして俺の新しい生活がスタートした──

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