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45 飲み会
優吾さんとの生活はなんてことなく、至って普通の日々だった。ただ俺と優吾さんとの仕事のリズムがあまり合わず、ちょっとすれ違いが多いだけ。最初こそお互い気を遣って自分の勤務時間をメモに残したり時間が合えば外で待ち合わせて食事をしたりしていたけれど、慣れていくにつれそういったことも少なくなっていった。
でも、一緒に住んでるんだから寂しくなんかない……大丈夫。
今週は俺の夜勤が続き、昼間の時間帯に仕事をしている優吾さんとは全然会えていなかった。同じ家に住んでいるのにこうもすれ違いが続いてはやっぱり寂しいし、早く会いたいと思ってしまう。それなのにせっかく長かった夜勤が終わりやっと家で優吾さんを迎えられると思っていたのに、夕方からの飲み会に誘われてしまった。何で仕事上がって帰宅したのにまた職場の人間と会うために外に出なきゃならないんだよ。本当は断ってもいいのだろうけど、先日二十歳の誕生日を迎えた俺へのお祝いだと言われてしまっては断れなかった。
そもそも優吾さんにすらまだ誕生日を祝ってもらってなかった。お互い忙しく話もできてないんだから、しょうがないと言えばしょうがない。
一旦帰宅してシャワーを浴びる。飲み会に出かけるまでの時間、少しでもちゃんと眠ろう。正直言って疲れも溜まってたからゆっくり休みたかった。何も俺の夜勤明けに飲み会を計画しなくてもいいじゃんか、と、文句も言いたいところだけど、みんなも忙しくて人数が集まるのはこの日しかなかったらしいから何も言えなかった。
優吾さんは今日は何時に帰ってくるのだろう。ここのところ連絡もなく、優吾さんの帰宅時間も把握していなかった。俺が出かける前に帰ってきてくれればいいなと期待したけど、結局帰ってこなかったので飲み会に出かける旨をメールで知らせてから俺は家を出た。
「安田君! こっちこっち。遅かったじゃないか。まあお疲れさん」
工場近くの小ぢんまりとした居酒屋。飲み会の際は何かとここの店を使うことが多いらしい。入り口で俺のことを待っててくれていた工場長に呼ばれ、一緒に店内に入る。俺のために十人近く集まってくれていて、もう既に奥の座敷にはみんなが座って俺を待っていてくれた。
「遅れてすみません。今日は俺のためにありがとうございます」
改めてお礼を言うと、とりあえず口実をつけて飲みたいだけだから気にすんな、と笑われた。まあわかってはいたけど、それなら俺はもう家に帰りたい……そんな気持ちをグッと堪える。実際この職場はいい人ばかりだったから、こんなこと考えたらダメだと笑顔を作った。
俺の周りはほとんどが歳上だ。パートのおばさん、社員のおじさん、きっと親くらい、いやそれ以上の歳なのだろう。高卒で入社していた俺はとにかく最初からみんなに可愛がられていたから、人見知りで暗い俺でも居心地がよく楽しく働けていた。勿論若い人も中にはいるけど、俺はやっぱりおじさんたちの方が接しやすくて疲れない。気を遣えなくても大目に見てくれるからきっと楽なのだろう。
ワイワイとそれぞれが楽しそうに酒を呑む。俺は成人したと言っても、実は酒を飲むのは初めてだった。そんな機会もなかったし、家でも優吾さんとあまり会えてなかったから一緒に飲んだりもしていない。食事に行っても今まで酒なんて興味がなかったから普通にソフトドリンクだったし、優吾さんからも勧められないから特に飲みたいとは思わなかった。
「……苦い」
初めに乾杯で渡されたビール。初めてのビールは正直苦くてなかなか飲み進められなかった。でも苦くて飲めないなんてカッコ悪いし、取り敢えずこのジョッキは飲み干してしまおうと、後半は頑張って一気に煽って何とか飲み終えた。
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