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46 知らない女

「安田君、結構飲めるのね」  パートのおばちゃん達に囲まれた俺は、勧められるがまま酒を呷る。ビールを終えてからは梅酒やら日本酒やら、甘くて飲みやすいのばかり飲まされた。 「これ美味しい……って待って? これジュース? 俺ソフトドリンクじゃなくていいからぁ。ねえ新しいの頂戴!」  だんだん楽しくなってくる。気がつけば俺の前に届くグラスは甘いジュースばかりで、もしかして酒初心者の俺はバカにされてるんじゃないかとイラついてきた。後からわかったことだけど、ビールは苦くて嫌だと漏らした俺に気を遣い、飲みやすいカクテルを持ってきてくれていたらしい。かなりいい感じに酔っ払ってしまった俺は、それからもおばちゃん達と楽しく飲んだ。  二時間ほど経った頃、所長の締めの言葉でお開きになった。俺はみんなの後から店を出る。ちょっと眠いし、どうしても足元がフラつきうまく歩けない。それでもなんとか店の外まで出て、タクシーで帰る奴らを見送り笑顔を作った。残った人間もそれぞれ駅に向かったり歩いて帰ったり、二次会だと言って繁華街の方へと歩き始めたり、それぞれが楽しそうに手を振り帰って行った。  店の壁に寄りかかりながら、俺はこれからどうしたものかと少し考える。一応酔っ払ってフラついている俺を心配して先輩達が声をかけてくれたけど「大丈夫」だと俺は折角の助けを断ってしまった。だって大丈夫だと思ったんだよね、これくらい。時間が経つにつれ、目眩も酷くなってくるし足にも力が入らないし、正直ここに立っているのがやっとだった。  どのくらい経ったのかわからないが、いつの間にか俺の隣に若い女が立っていた。こんな子今日のメンバーにいたっけ? そうぼんやりと考えその子を見つめる。ジッと見たところで思い出せるはずもなく、思考力が低下してるのかそんなことどうでもいいように思えた。 「……大丈夫?」  その子が突然俺に話しかけてきた。髪が長くて女の子らしく、瞳が大きくて可愛い子。きっと歳も俺と同じくらいだろう。 「大丈夫じゃない……かも」  俺はその子が職場の人間じゃないような気がして、全く知らない人間ならどうっだっていいやと思い本音を漏らす。俺の返事にその子はクスッと笑った。 「他のお店で飲み直そうかなって思ったんだけど……無理かな?」 「別にいいよ」  特に不快じゃなかったし、いい子そうだったから俺はそんな突然の誘いに何の抵抗もなくOKをしてしまった。 「じゃ、行こっか?」 「おう」  フラついてコケないように踏ん張りながら、なんでもない風を装って俺はスタスタと歩く。でも結局はその子に腕を取られ、俺はよろけながら歩いていた。 「ずいぶん飲んだんだね? 歩きにくかったら私の肩に寄っかかっててもいいよ」  そう言って俺の腕を自分の肩にかけるから、俺はお言葉に甘えてその子の肩を抱くようにして歩いた。寄っかかってもいいと言ってくれたけど、か弱そうな女の子に思いっきり体重をかけるわけにもいかず、ちょっとぎこちなく並んで歩く。体が密着したら、さっきまでは気付かなかったけどちょっとだけいい匂いがした。  どこに向かって歩いているのか、この子は誰なのか、何にもわからないまま俺はただ彼女に連れられて歩いている。歩きながら何歳なのか、仕事は何をやってるのか、など俺のことを色々と聞かれたけど、酔っ払ってどうでもよくなっていた俺は聞かれるままに素直に答えた。  少し歩いた先、小さなバーに到着する。入り口もちょっとわかりにくく初めての人間は入りにくいと思わせるような雰囲気の店。店内は思ったほど広くはなくカウンターの他にいくつかのテーブル席があるだけ。奥の通路に扉がいくつか見えるけど、あれはきっと従業員の控え室か何かだろう。  南国を思わせる装飾に加え、独特な匂いが立ち込める薄暗い店内に緊張していたら、すぐに俺はカウンターの一番奥の席に押しやられてしまった。

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