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47 迎え
夜道を歩いて酔いが覚めたのか少し冷静になってる自分がいた。
俺は何やってんだ? この女は何なんだ? 今更ながら自分の状況がよくわからず困惑する。女は俺にピッタリとくっつくように座り、腕まで絡ませ他愛ないお喋りを続けている。さりげなく離れようとしてもしっかりと捕まえられていて全然俺から離れてくれない。頼んでもいない飲み物を店員から出されていたけど、それを飲んではダメだと何となく頭の中で警笛がなった。
「どうしたの? つまらない?」
覗き込むようにして俺の顔色を伺う見知らぬ女。
ああ、つまらない──
せっかく今日は優吾さんと会えると思っていたのに急な飲み会でパアになった。でも俺の成人のお祝いだと言って職場のみんなは親切にしてくれたし、俺のためにたくさん盛り上げてくれた。
凄く楽しかった。
「もう帰りたい」
今から帰ったら、もしかしたら優吾さんも帰って来ていて会えるかもしれない。
誘われるがままこんな所までついてきてしまった俺が悪い。でも知らない女とここで楽しく酒が飲めるとも到底思えず、申し訳ないけどこのまま帰らせてもらいたいと俺は正直に話した。
雰囲気からすんなりと帰してもらえなさそうだったけど、意外にあっさり女は頷く。
「そっか、残念。でもこれ、これは私の奢りなんだからちゃんと飲んでってよね」
笑顔で俺の前にグラスをよこす。店に来て最初に出されたそれは誰にも飲んでもらえず氷もすっかり溶け、グラスを伝った水滴がテーブルを濡らしていた。
「………… 」
テーブルの小さな水溜りを指で弄りながら、早く帰りたかった俺は躊躇いつつもそのグラスに口を付けた。
何かのカクテルかな?
一瞬口に含まれたそれはとても甘くて思わず顔をしかめる。それと同時に頭の先から背中にかけて冷たい何かが一気に走り俺は驚いて声を上げずにはいられなかった。
「何してんの?」
聞き覚えのある声が頭上から聞こえる。しかも俺の知っているこの声、いつもの優しい声じゃない。俺は恐る恐る振り返りその声の主を確認した。
「優吾さん?」
見たこともない怖い顔。おまけに先ほど体に走り抜けた冷たく感じた何かが優吾さんに頭からかけられた水なのだとわかり、俺は一気に酔いから覚めた。
「これ、俺のツレだから。面倒かけたね」
優吾さんは静かにそう言って、呆気にとられている女の前に金を置き俺の腕を掴んで椅子から引っ張り上げる。結構な力で掴まれて腕が痛い。でも優吾さんに掴まれている腕なんかより、その怒っている表情に俺は胸が痛かった。
「優吾さん……何でここに? ねえ、優吾さん、ごめんね。優吾さん……」
無言でグイグイ引っ張られ店の外に出る。目の前に見えたのは店に横付けされている優吾さんの車。先程水をかけられて濡れた体が夜風にあたって一段と冷えた。
「帰るぞ」
優吾さんが助手席のドアを開けてくれたのも束の間、俺はそのまま突き飛ばされるようにして強引に車に乗せられた。無言で優吾さんも車に乗り込みエンジンをかける。エアコンの送風口から直接当たる風が寒くて俺は慌てて風向きを変えた。
何だよ……何も水かけなくたっていいじゃん。
チラリと優吾さんの顔色を伺う。無表情。でも絶対に怒っているのがわかる。
「何で俺があの店にいたのわかったの? 優吾さん、仕事終わり?……迎えに来てくれてあの、ありがとう」
「………… 」
無視された。きっと俺が知らない女と一緒だったから怒ってるんだ。もし逆の立場だったら俺、凄え嫌だもん。
「ごめんね、優吾さん。あの女は何でもないから。怒らないでよ」
「……は? 女なんてどうでもいいんだよ。公敬君はどうしてそんななの? もういい大人なんだからもっとしっかりしなよ」
見知らぬ女のことはどうでもいいのかよ。やきもちなんか妬いてくれないとわかって俺は少しがっかりする。
でも俺は謝ったし、優吾さんがいつまでも怒ってんならもういいや。
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