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48 ダンマリ
はい。
これはいわゆる逆ギレというやつです、わかってます。
さっきからダンマリの優吾さんと同じくダンマリの俺。初めて酒飲んで酔っ払っちゃったんだからしょうがないじゃん。しっかりしろって……そんなの言われなくてもわかってる。全然喋ってくれない優吾さんに対抗するように俺も喋らずダンマリを決める。
車の揺れが何だか心地よい。
不意に襲って来た眠気に、俺は軽く頬を叩いた。
でも本当に、何で俺があの店にいるとわかったのだろう? そっと視線を窓の外から優吾さんに向ける。 優吾さんの何を考えているのかわからない表情と、ドラマよろしく頭から水をかけられた現実に気持ちが沈んだ。
俺、水ぶっかけられる程の酷い失態だったのかな。でも知らない人について行くなんて、今どき子どもでもそんなことしない。
やっぱり俺が悪いんだ……
「公敬君、体、何ともない?」
「……?」
信号待ちで突然話しかけられ、嬉しくて思わず勢いよく優吾さんの方を見た。急に動いたからか一瞬目が回ったけど「全然! 大丈夫だよ!」と俺は元気にそう答えた。
「君さ、飲み物に変なの盛られてたよ? あんな怪しいの飲もうとしちゃダメじゃん。橋本から連絡なかったらどうなってたか……俺がたまたま近くにいたから良かったものの。全く、どんだけ心配かけるんだ」
「盛られ? へ? 何のこと? そっか、優吾さん来てくれたのって橋本さんから連絡もらったんだね。俺、優吾さんと凄く会いたかったから、嬉しい。久しぶりだね優吾さん」
優吾さんが心配してくれていたとわかり嬉しくなる。調子に乗って嬉しいなんて口走ってしまったらまた睨まれてしまった。
「そんな可愛く言ったってダメだぞ。酒なんていつから飲むようになったんだ? いきなり自分見失うほど飲むんじゃねえよ」
「ごめんなさい」
いつから? なんて、酒飲んだのなんて今日が初めてだよ。俺がとっくに誕生日を迎えてハタチになったの、優吾さん気付いてないのかな。そうだよ、お祝いだってまだしてもらっていなかった。
そう思ったら寂しくなった。
「あの男だって知らない奴だろ? 酔っ払ってるとはいえさ、あんなのについてっちゃダメだからね」
……男?
優吾さんたら何を言ってるんだろう? と、ぼんやりしてきた頭で思ったけど、もう瞼が閉じてきてしまってどうにも意識が保てない。ぐらついた頭が窓に当たった。痛いと感じる前に大きな欠伸が出てしまい慌てて手のひらで口を押さえた。
せっかく優吾さんと話せたのに……ちゃんと仲直りしたいのに……何で俺、こんなに急に眠くなっちゃってんだろう。
「いや……あれ男じゃないよ、おんな……だよ……」
そこまで言った俺は突然襲ってきた睡魔に勝てず、諦めて瞼を閉じた。
「全く。あれは男だったろ? 声聞いてわからなかったのかよ。どれだけ飲んだんだ?」
薄れていく意識の中で、呆れたように笑って俺の頭を撫でてくれる優吾さんの顔が見えた。
「あれ? 優吾さん?」
ふと目が覚めたらベッドの中だった。着ているものは脱がされていて下着姿。それでも部屋がちゃんと暖められていて寒くはなかった。
なんで俺、ベッドで寝てんだろう?
寝ぼけた頭で考え、すぐに今までのことを思い出した。隣に優吾さんが寝ていないのが気になって慌てた俺は勢いよく体を起こす。でも起きた途端に気持ち悪さに襲われてへたり込んでしまった。
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