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49 プレゼント

「んん……グラグラする。やだ……優吾さん、どこ?」  不安になったけどすぐに優吾さんが部屋に入って来たからホッとした。手には水のペットボトル。口の中が気持ち悪かったからちょうどよかった。それをもらおうと口を開きかけたら優吾さんが俺の隣に腰かける。水分をたくさん取れと言われ、その水をもらえるのかと思ったら優吾さんに飲まれてしまった。 「……? んっ?」  俺の水……と思ったのも束の間、優吾さんに頭を掴まれキスをされた。優吾さんの口から伝わる生ぬるい水。驚いたけど零しちゃいけないと思い、俺は慌てて口移しの水を全て飲んだ。 「上手に飲めたな。ふふ……溢れちゃってる」  優吾さんは俺の口元に指を這わせイヤラしく撫でた。 「多分睡眠薬みたいなのを飲まされたんだな。飲んだのが少量だったから大したことなさそうだったけど……気分悪いだろ。もう少し休んでるか?」  さっきまでの怖い顔の優吾さんとは打って変わって、優しく俺を心配してくれる。  優吾さんと久しぶりにキスをした……  睡眠薬がどうとか聞こえたけどそんなのどうでもいい。優吾さんとのキスですっかり舞い上がってしまった俺は馬鹿みたいに胸をドキドキさせて優吾さんにしがみつく。せっかく優吾さんがそこにいるのに、ひとり休むだなんて勿体ない。俺はもっとキスがしたくて、もっと触れ合いたくて、甘えるように優吾さんの胸に頭を擦り寄せた。 「大丈夫。もっと……もっとキス、したい。ねえ、俺大丈夫だから、もっと……して」  ふわっと優吾さんの手が頭に触れる。クシャッと髪を撫でられ、俺は堪らなくなって顔を上げた。 「随分と甘えただな。でもちょっと待って、いい子だから……ここで待ってて」  優吾さんはまるで子どもをあやすかの様に優しく微笑んで、ベッドから離れてしまう。俺はちょっとでも離れるのが嫌で思わず「やだ」なんて口走った。 「すぐ戻るから、な?」  もう一度俺の髪をクシャッとやってから、優吾さんは俺の手を離して寝室から出て行ってしまった。  すぐ戻ると言っていた通り、俺が拗ねる間も無く優吾さんはすぐに戻って来てくれた。部屋に入って来た優吾さんの姿を見た俺は驚いて言葉が出ない。  なんなの? これ。 「遅くなっちゃってごめんな。公敬君、誕生日おめでとう」  優吾さんが両腕に抱えるようにして持ってきたのは顔が見えないほどの大きなバラの花束だった。真っ赤なそのバラは百本近くあるんじゃないか? 俺は今まで生きて来た中でこんなに大きな花束なんて見たことがなかった。呆気にとられていると優吾さんは俺の横にぼすんと花束を置いた。 「公敬君? 無反応寂しいんだけど……ちょっと? こっち見て。どう?」  そう言いながら優吾さんが俺の頬を撫でる。 「いや、無反応じゃなくて。驚くでしょこんなの見たら……凄いや! こんなデッカい花束、俺初めて見たよ」  そもそも花なんて普段あまり手にしないから、その花束の重みと鼻を擽るバラの香りに俺は感動するばかりだった。手にしないどころか、花を貰ったのも初めてだ。  優吾さんがちゃんと俺の誕生日をわかってくれていて、こんなに大きな花束を俺のために用意してくれていた。お祝いをまだしてもらえてないなんて拗ねて酔っ払って醜態を晒してた俺、ぶん殴ってやりたい。 「優吾さん……ありがとう。俺、凄え嬉しい。最高……」 「あれれ? 公敬君泣いてる?」 「泣いてない!」  いや、嬉しくて泣きそうだったけど……泣いてないから。 「あと、これね」  優吾さんは俺の手首を掴むとぐいっと引き寄せ、俺に背中を向ける。優吾さんの背中が邪魔して掴まれた自分の手首は見えないけど、腕時計を着けられているのが感覚でわかった。着け終わりドヤ顔で振り返る優吾さんはなんだか悪戯っ子みたい。 「俺からのプレゼント」  優吾さんから解放され自分の手首を見ると、見覚えのある腕時計が着けられていた。 「え? これ! 優吾さんの?」 「ううん、タイプは違うけどお揃いだよ。公敬君これカッコいいって言ってたでしょ? 成人のお祝いね」  そう、優吾さんは腕時計もたくさん持っている。いつもスーツでビシッと決めて、その腕には主張しすぎないセンスのある時計が光っている。そんな優吾さんの姿はまさに「できる男」みたいで俺は憧れていた。ブランドとかそういうのは全然わからないけど、この時計は特に優吾さんに似合っていてカッコいいなって思ってたんだ。 「俺だと思って大事に使ってね」 「はは……優吾さんだと思って? なんか可愛い。勿論大切にするよ。ありがとう。ほんと嬉しい」  勿体無くて仕事の日は着けられないな、なんて思いながら、俺は自分の腕に誇らしげに光る時計を眺め優吾さんにキスをした。

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