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50 朝食

 誕生日のお祝いだといってこんなに優吾さんに良くしてもらったら、俺はどんなお返しをしてあげたらいいのだろう。実は俺と優吾さんの誕生日はとても近くて、それは既に数日後に迫っていた。  昨晩はそのまま優吾さんに甘えまくって、抱きついたまま眠ってしまった。二人とも今日は休みで一日一緒に過ごせる。カーテンの隙間から漏れる暖かそうな日差しが顔に触れ、目を細めながら優吾さんの寝顔を確認した。気持ち良さそうに眠る優吾さんの頬に口づけ、今日はデート日和かな? なんて思いながら、起こさない様に俺はそおっとベッドから抜けだした。  今日は久しぶりに朝食を作ってあげよう。優吾さんも最初は料理なんて出来たもんじゃなかったけど、かなり上達して今では俺より優吾さんが朝食を用意してくれている事が多いくらい。初めて俺のために料理をしてくれた時の黒焦げトーストとシュンとした顔を思い出して、思わずにやけてしまった。  何かあったかな? と冷蔵庫を覗く。優吾さんがちゃんと買い物もしてくれていたらしく食材はある程度揃っていた。これだけあればなんでも出来そう。  今日は特別。  ちょっといつもより見栄えいいものを作ってみよう。そう思って俺は携帯片手に料理を始めた。  パンケーキにポーチドエッグ、サラダも添えてオニオンスープも作ってみた。俺が出来るのはレシピを見ながらこのくらいのものを作るのが限度だけど、スープの匂いとパンケーキの甘い匂いに我ながら良く出来たと満足した。出来上がったものをテーブルに並べていたら眠たそうな顔をした優吾さんが起きてきた。 「お! いい匂い。今日は公敬君が作ってくれたの? 久々じゃん、嬉しいな……って、なにこれ、カフェみたいじゃん。オシャレ」  優吾さんは楽しそうにテーブルを周り、俺の力作をまじまじと見つめた。おまけに携帯で写真まで撮られてちょっと恥ずかしい。 「なにやってんの? こんなの撮らないでよ」 「やだ、橋本に自慢するんだもん」  そう言いながら撮ったものを橋本さんに送ったらしく、早速帰ってきた返信を俺に見せてきた。その画面には「嫁さんに欲しいな」と書いてある。優吾さんが「俺のなんだからやらねえよ」なんて言うもんだから嬉しいやら恥ずかしいやら、なにも言えなくなってしまった。  久しぶりに一緒にとる食事。寝起きの優吾さんは実年齢よりずっと若く見え、俺より幼く見える気もする。気を張ってない素の表情。こんな姿、俺の前でだけなのも知っている。普段の優吾さんとのギャップがまた堪らなく好きなんだ。 「なに? ジッと見つめられると恥ずかしいんだけど。大丈夫だよ? ちゃんと美味しいよ」  ジッと見てたら顔を赤くして照れてる優吾さん。なんでこんなに可愛いんだろう。忙しくすれ違いが続くと忘れがちになってしまうけど、やっぱり俺は幸せなんだな。 「ううん。優吾さんと一緒にいられて、俺幸せだなって思って」 「なんだよ。誕生日プレゼントそんなに良かった?」 「そういうことじゃねえって……もう」  朝食を終え、終始御機嫌な優吾さんが洗い物をやってくれた。鼻歌交じりに食器を洗っている優吾さんの背後から抱きつき甘えてみせると、不思議そうな顔をして振り返った。 「どうしたのかな? 公敬君、昨日から甘えたさん」  優吾さんはクスッと笑って俺の頬に手を添えて引き寄せる。俺は吸い込まれるように優吾さんにキスをした。 「どうしたのって、わかってるでしょ? 優吾さんの意地悪。昨日は俺……さっさと寝ちゃって、ごめんね。その……今はもう目が覚めてスッキリしてるっていうか、もう寝ないから……あ、優吾さんも今日は何も予定ないでしょ? ゆっくりできるんでしょ?……だから、今からでもよければ……俺のこと、好きにしていいよ?」  今、俺にできる精一杯のお誘い。  恥ずかしくて「抱かれたい」とちゃんと言えない。  せっかく一緒に住んでるというのに、ここ最近全然スキンシップが取れてない。  求められないと不安になる……  誕生日だからとこんなに良くしてもらったのに、幸せだって実感はちゃんとあるのに、ふとした拍子に不安が押し寄せてくるんだ。 「好きにしていいの?」  優吾さんの俺を見る目が途端に変わる。その目に見つめられ、ゾクッと腰の辺りから電気が走るような感覚に襲われる。 まだ何もされてないのにそれだけでもう体の中心が熱くなる気がして、堪らなくなって俺は優吾さんにしがみついた。 「うん……好きにして」

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