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58 寝息

 ゆっくり時間をかけてシャワーを済ませる。  待ちきれないと言って途中で優吾さんに乱入され風呂場で致してしまうことも今までに何度かあったけど、今回はそれもなかったのでやっぱり寝てしまったのだとわかり俺はホッとした。  微かに香った香水の匂い。優吾さんの持っているそれとは違う、今までに嗅いだことのない匂い。昨晩の電話口に聞こえた女の声が一瞬頭を過ったけどすぐにそれを振り払う。優吾さんは今日は橋本さんと一緒だったんだ。二人きりで飲んでいたとも限らないけど、それでも橋本さんと一緒なら大丈夫だ。何も疑うようなことは無い。  俺はぼんやりと髪も乾かし、寝る気満々で二階へ上がった。寝室のドアをそっと開けると、ベッドの隅で小さくなって眠っている優吾さんが目に入る。 「やっぱり寝ちゃってら……」  俺のスペースを開けてくれてるのか、そこまで端じゃなくても……ってくらい隅っこで寝ている優吾さんが可愛くて勝手に笑みがこぼれてしまう。ちゃんと自分でスーツを脱ぎ捨て下着姿になっている優吾さんにそっと布団を掛けてやり、そこかしこに脱ぎ散らかしてある衣類を片付けた。  優吾さんが寝てしまっていたら俺もすぐに寝ようと思っていたのに、どういうわけか優吾さんの隣にすぐに潜り込むことが出来なかった。 「………… 」  ベッドのすぐ横にしゃがみ込み、優吾さんの寝顔をじっと見る。初めて出会った時と全然変わらない、若々しくて綺麗な顔。いや、少し痩せたかな? 疲れてやつれて見えるのか、ちゃんと食事を取ってなかったのか、数日会ってないんだからわかるわけもない。  ほんと何やってんだろう。  こんなに好きなのに、自分のことでいっぱいいっぱいになって優吾さんの事を蔑ろにしていた自分に腹が立つ。自分が放ったらかしにしていたくせに、いざ女の影がチラッとでも見えればこんなにも動揺してしまっている。  ……バカみたいだ。  モヤモヤしてるくせに、怖くて聞けない。きっとこのまま朝を迎えても俺は優吾さんには聞けないんだろうな。 「大丈夫。ちゃんと帰ってきてくれたんだ。何でもない……大丈夫」  小さく自分に言い聞かせ、そっと優吾さんを起こさないよう俺もベッドに潜り込んだ。先ほど感じた香水の匂いも気になることはなく、触れない程度に優吾さんに顔を寄せ目を閉じる。微かに優吾さんの寝息を感じ、その呼吸に合わせるように息をしながら俺も眠りについた。  朝方、体の違和感で目がさめる。 「公敬君、おはよ……お先寝ちゃってごめんね」  ゆっくりと目を開けると、目の前に優吾さんの顔がある。俺を見るなりニコッと笑いキスをした。触れるだけの軽いキスを唇、頬、額、とあちこちに落とされ擽ったい。俺が寝ている間にシャワーを浴びたのか、優吾さんからいつものボディーソープの匂いがした。 「今からシタい……ダメ?」  そう言いながら既に優吾さんの手は俺の股間に伸びている。ダメだと言ったってこの人が俺の言うことを聞くわけがない。 「……やだ」  これっぽっちも嫌だなんて思ってないけどなんとなくそう言ってみる。一瞬キョトンと俺を見たけど「ウソつき……」と笑った。

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