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62 デート

 起き抜けの優吾さんとのセックスに体力を消耗してしまったのか、それとも昨夜熟睡できなかったのか、俺は優吾さんに抱かれた後そのままの状態で熟睡してしまった。  どのくらい眠っていたのだろう……  頭を優しく撫でられる感覚に目を覚まし、目の前の優吾さんと目が合った。 「おはよ、よく寝たね。お昼過ぎちゃったよ?」  俺の頬にキスをする優吾さんに、俺からもお返しにキスをした。優吾さんはいつから起きていたのか既に服に着替えている。しっかりと髪も整え、いつでも出掛けられる状態だった。そうだ、今日はお互い休みで久し振りにデートしようと言っていたのに…… 「ごめんね、起こしてくれたらよかったのに。優吾さん腹減ってない? 急いで支度するからちょっと待ってて」  慌てなくてもいいよと笑ってくれたけど、俺が嫌なんだ。せっかくの休日、時間が勿体無い。こんな時間まで微睡んでいるつもりはなかったから慌ててしまった。急いで着替えを済ませ洗面所に走る。そんな俺を優吾さんは黙って見つめていた。  優吾さんの車で少しだけ遠出をする。今日は蕎麦が食べたい気分だからと、優吾さんのお気に入りの蕎麦屋に行くことになった。俺も何回か連れてきてもらった事がある山の麓にある小さな蕎麦屋。昼をまわってしまっているからと、念のため行く前に店に連絡を入れた。到着すると、思った通り既に客は俺たちだけだった。  優吾さんはこの店の十割蕎麦が美味いと絶賛しているけど、サクッと揚がった天ぷらも俺は好きだ。天ぷらの盛り合わせを頼む俺を見て「よく食うな」と呆れたように笑うけど、たくさんは食べられないけど少しなら、と言って俺の皿から一つだけ優吾さんは口をつけるのを知っているから、今回も季節の天ぷらも注文した。  美味しい蕎麦を堪能してからまた少し車を走らせる。行き先も決めず、ただのんびりとドライブ。俺は優吾さんと二人きりのこの空間が心地良いからドライブが好きだけど、運転を任せてしまっているのが少し心苦しかった。  暫く山道を走り、また戻る。  地元に戻ると今度は買い物がしたいと言っていつものデパートに立ち寄った。ここは必ずと言っていいほど、優吾さんの担当だという店員が何処からともなく現れて俺たちに付いて回る。店頭に出していない物を見せてくれたり、買い物をした荷物をサロンで預かってくれたり、特別な部屋で飲み物を振舞ってくれたり、きっと優吾さんがお得意様だからこういった対応をしてくれるのだろうけど、こういうのに慣れない人見知りの俺は恥ずかしくてちょっと嫌だった。おまけに今日は俺が知っている店員ではなく、新しく担当になったという若い男が一緒だったので尚更俺は居心地が悪かった。前の人はベテランっぽい年配の人だったから気にならなかったけど、若くて見た目も格好良いその男が、妙に優吾さんと親しげに見え俺はヤキモチを妬いてしまう前に早く帰りたかった。優吾さんは新しいゴルフウェアと俺の部屋着を購入して早々に切り上げる。俺が早く帰りたがってるのが伝わってしまったのか、まだ時間があるのにもかかわらず「他はまた後日に」と言って優吾さんは買い物を終えてくれた。  今日は車の中では俺の話ばかりだった。優吾さんは俺の昇進試験のことが気になるらしく、何度も近況を聞かれた。  工場ではなく本社勤務になれるよう時期が来たら昇進試験を受けるといい、と優吾さんが勧めてくれた。俺は正直先の事なんてあまり深くは考えておらず、仕事があってお金が貰えて、自分が生活できればそれでいいと思っていたから、言われた時はちょっとだけ面倒臭いと思ったのを覚えている。それでも入社して五年目も過ぎたことだし、と、工場長に相談をした。工場長は快く俺の話を聞いてくれ、自分でも色々と調べてみた。調べれば調べるほど、仕事の内容や給料にも凄く差が出ることがわかり、今の単純な作業より断然面白そうで、優吾さんが「視野を広げろ」と言っていたのがわかった気がした。  これは俺がちゃんと一人でもやっていけるようにと、優吾さんが考えてくれてたことなんだと今になって思うけど……やっぱり俺は優吾さんと一緒にいたかったな──

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