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65 報告

「ねえ、優吾さん……話したい事があるんだけどちょっといい?」  あれから数日経った日、夜勤を終え朝方家に帰ると出勤前のスーツ姿の優吾さんと会うことができた。 「……ごめん、もう出なくちゃだから。帰ってからでもいい?」 「うん、わかった。夕飯は?」  俺は今日明日と休みだったから、優吾さんが帰ってくれば一緒に食事も出来るかと思いそう聞いた。こうやって家で会うのも何日ぶりだろう。俺は凄く嬉しいのに、優吾さんの反応はいつも通りだし、寧ろさっさと出かけたいのか素っ気なく感じてしまった。 「夕飯? いらない。食事の約束があるから……でも遅くならないように帰るから」 「そう。わかった」  久しぶりに優吾さんのために腕をふるえると思ったのにな。自炊も何日もしていない。今日は買い物にでも行って適当に食べ物を買ってこよう。ひとりでする食事は味気なくて嫌いだけど。  優吾さんに行ってらっしゃいのキスもさせてもらえず、玄関を出て行く後ろ姿を見つめる。俺はバタンとドアが閉まってから、小さな声で「行ってらっしゃい」と呟いた。  日中は部屋の掃除や買い物など、今まで出来てなかった家事に専念した。  夜帰ってくる優吾さんに話したいこと……それを考えると少し緊張してしまう。大事な話もそうだけど、夜、優吾さんと一緒に過ごすのだって久しぶりでソワソワする。自身の食事も適当に済ませ、気持ちを落ち着かせるために俺はゆっくりと風呂に入った。  朝言っていた通り、さほど遅くない時間に優吾さんは帰ってきてくれた。帰ってくるなり抱きしめてくれ、「急いで着替えるからあと少しだけ待ってて」とクローゼットのある寝室に行ってしまう。俺が朝言っていた「話がある」をちゃんと覚えていてくれたのが嬉しかったし、久し振りに触れてもらえたことが何より嬉しく思ってしまった。  恋人なのにな……  嬉しい反面ちょっと複雑な気持ちにもなってしまった。  着替えを済ませリビングに戻った優吾さんにソファに座ってもらった。「なんだよ、改まって」と笑う優吾さんに、俺は本社勤務が決まったと報告をした。 「本当か? 思ったより早かったな! おめでとう! いや、嬉しいね! お祝いしなくちゃ」  想像以上に喜んでくれた優吾さんに、俺はそのまま続けて先日見つけた指輪のことを言ってみた。  途端に優吾さんの顔から笑顔が消える。この顔は俺は全く予想しておらず、何かまずいことでも言ってしまったのかと少し怖くなってしまった。 「優吾さん……?」 「あ……ごめん、今なんて言った?」 「えっと、寝室のクローゼットで……箱が落ちてるのを見つけて、あれ……指輪、だよね?」  恋人のためにこっそり用意していた指輪。それを当人が見つけてしまった気まずさに優吾さんはこんなに複雑な表情をしているのかと思った。こっそりとお祝いに用意してくれた物だったのか、それとも何か別の理由で…… 「そっか……指輪、ね。見つけちゃったか」  優吾さんはフッと笑って俺に隣に座れと促した。俺は言われた通りに優吾さんの隣に腰掛ける。「そうか、そうか」と呟きながら、そのまま俺を抱きしめてきたから優吾さんがどんな顔をしているのか俺には見ることが出来なかった。

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