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67 別れ

「優吾さん……ごめん。わかったから……でも今日はここにいて。俺と一緒に寝てほしい。隣で眠るだけでいいから……」  俺はやっとの思いで優吾さんにそう伝えた。  せめて……せめて最後に優吾さんにそばにいてほしかった。  優吾さんと一緒にベッドに入る。入った途端に目の奥が熱くなった。さっきまであんなに混乱して怒りやら悲しさやら感情の波が渦巻いていたけど、横になったら急に冷静になってしまい、もうおしまいだという寂しさと悲しさだけが俺の中に残ってしまった。  これで最後だなんて、こんなの耐えられるはずがない……  優吾さんに見えないように背を向けて溢れる涙を枕に沈めた。  これから俺はどうしたらいい? まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。これから先一人なんだと思ったら、どうしようもなく涙が溢れた。 「大丈夫?」  背後から優吾さんの声が聞こえる。大丈夫? じゃないよ! 誰のせいでこんなになってるんだよ。言いたいことは山ほどあるのにそれらが言葉になって出てこない。ひとつ吐き出してしまったら嫌な感情を止め処なくぶちまけてしまいそうで口を開くことができなかった。 「……何もしないからさ、このまま抱きしめてもいいかい?」  優吾さんはそう言って、俺の返事を待たずに後ろから抱きしめてきた。俺は堪らず振り返り優吾さんの胸に顔を埋める。ぎゅっと強く抱きしめて欲しいから、優吾さんを困らせたくない、でも離れたくない、それらの気持ちを伝える言葉も見つからない俺はただただ優吾さんの胸の中で涙を溢した。 「ねえ……俺のこと抱いてよ……酷くしてもいいから。眠らなくてもいいから……優吾さん、お願い……」  酷い顔を見られるのが辛くてどうしても顔を上げることはできなかった。それでもちゃんと優吾さんに聞こえるように俺は言った。  引き止めないから……  もう困らせないから……  何も言わない。いや、言えないから、せめて最後に愛し合ったんだという思い出が欲しかった。この記憶に縋って俺はこれからを耐えるから。 「………… 」  返事が無いから俺は恐る恐る顔を上げる。優吾さんの顔を見るのが怖かった。でも俺が顔を見る前に優吾さんの手で目元を塞がれ、その顔を見ることはできなかった。 「何言ってんだ、酷くなんか抱けないよ……それにもう公敬君を抱くこともない。今までありがとな……」  優吾さんはそう言って、俺の額にキスをした。  俺は最愛の人に最後の思い出にも抱いてもらえなかった。  こんな事ってあるかよ。  結局俺は顔すら上げられず、優吾さんの胸の中で泣くだけ泣いて朝を迎えた。  優吾さんは俺を残して行ってしまった。荷物の整理に何度か戻るけど最終的には鍵も返すと笑顔で俺にそう言った。この家の名義は俺になってるから好きにしたらいいって……知らない間に勝手に何してくれてんだよ。  訳がわからない。  俺は出て行く優吾さんの後ろ姿をベッドの中から見送ることしかできなかった。  全然眠れなかったから、今になって眠たくなってきた。このまま眠りについて再び目覚めたら、ここまでの出来事が夢だったってことにならないかな。起きたらまた優吾さんが隣で眠ってるんだ。  俺はバカみたいな淡い期待と優吾さんの枕を抱きしめてもう一度眠る。でもそんな思いも虚しく、再び目が覚めた時にはやっぱりひとりぼっちで、虚しさと孤独感しか残らなかった。

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