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68 悪くない……
優吾さんは好きにしていいと言っていたけど俺はこの家から出て行く気は全く起きず、思い出に縋るようにして一人で暮らし続けた。
時間があるときは優吾さんの分の食事も作る。仕事で遅くなりそうなときは置き手紙まで書いたりもした。何となく今まで疎かにしてしまったことを取り戻したくて、優吾さんがそこにいるかのように生活をしていた。
我ながらおかしな事をしているとわかっていたし、優吾さんはもう帰ってこないのもわかっていたけど、もしかしたら……という淡い期待はどうしても消せなかった。
本社勤務になってからは、朝起きて出社して、夜には帰宅し眠りにつく。夜勤もなく規則正しい生活に体が慣れ始めた頃、一度だけ優吾さんがこの家に帰ってきた。
俺が仕事に行っている間に荷物を持ち出していたのは知っていた。洋服の一部と装飾品。それだけ。わざと俺と会わない時間を見計らって来ていたのだろうけど、この日に限って帰宅が早く、部屋にいる優吾さんと会ってしまった。
「あ……久しぶり」
明らかに気不味い表情を見せる優吾さんに悲しくなった。それと同時に湧き上がってくる「触れたい」という気持ち。もう他人なのだから……と思えば余計に欲が出てきてしまう。そもそももう他人なのだから俺が何をしたって関係ないのでは? 優吾さんに嫌われようとどうでもいい。今まで「嫌われたくない」と遠慮していたところがあったけど、今となっては赤の他人、そして優吾さんは俺の知らない泥棒猫のところへ行ってしまったのだから。
優吾さんと見知らぬ女が俺にした仕打ちを考えたら、俺が仕返ししたって文句も言えないだろう。
いや、文句など言わせない。
婚約者がいようと知ったことではない。
「久しぶりだね、コーヒーでも飲んでいってよ。ちょっとゆっくりしていったら?」
俺は優吾さんに自然な笑顔を見せられているだろうか。警戒されてないだろうか。キッチンに立ち、インスタントのコーヒーをいれながら背後にいる優吾さんに気を向ける。でも俺の心配をよそに優吾さんは「ありがとう」とダイニングの椅子に腰をおろした。
「今日は何を取りに来たの? 来たばっかり?」
優吾さんに声をかけながら、コーヒーの入ったマグカップを前に差し出す。
少しぬるめのコーヒー。
俺はわざと手を滑らせ、優吾さんの上に被るようにコーヒーを零した。
「ごめん、シミになっちゃうから早く脱いで……」
「わざとらしいんだよ、何やってんだ」
俺は優吾さんの前に跪きベルトに手を掛ける。怖くて優吾さんの顔を見ることが出来ない。でもその声は全然怒ってるように聞こえなかったからちょっとだけ安心した。
「脱いで……早く、ねえ優吾さん……」
俺はもう堪らなくなり、股間に顔を埋める勢いでベルトを外す。
「あ……おい、自分で脱ぐから」
優吾さんは俺の頭に手をかけ軽く押しやり、椅子から立ち上がる。すかさず俺は優吾さんの腰に縋るようにしてズボンを脱がせた。
「ねえ……わざとだってわかってるんでしょ? なら頂戴……優吾さんのこれ……ほらもう勃ってるじゃん……」
興奮した。
だって優吾さん、何にも言わないんだ。黙って俺のこと見つめて、俺にされるがままになってる。いつもならどんな時でも優吾さんのペースだったのに。
……きっと言い訳を作ってるんだよね?
「いいよ、全部俺のせい。優吾さんは何も悪くない。俺が勝手にやった事……」
目の前の軽く勃起した優吾さんのペニスに舌を這わす。シャワーも浴びていない、少し蒸れた優吾さんの匂いに腰が疼いた。
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