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70 涙
「いい加減にしろっ!」
ぐいっと髪の毛ごと上を向かされ、そのまま乱暴に頭を揺さぶられた。一瞬の出来事で、何をされたのか少しの間わからなかった。
「そんな顔して……そんな酷い顔して……何やってんだよ。そこまでするなら、俺にちゃんと抱かれろよ……」
引っ張られた髪が痛い。そんな乱暴に揺すられたら倒れてしまいそう。俺は声を荒らげ怒っている優吾さんを恐る恐る見て言葉を失った。
俺を見下ろし怒っているはずの優吾さんは酷く顔を歪ませ涙を流していた。
嘘……
優吾さんが泣いている? それは初めて見る優吾さんの泣き顔だった。
「待って……ごめん、ごめんなさい……優吾さん」
思わず謝罪の言葉が漏れてしまった。
違うんだ。なんで俺は謝っているんだ。優吾さんの涙に動揺してわけがわからなくなっていると、ははっ……と乾いた笑い声が耳に入った。
「何謝ってんだ? 馬鹿なのか?……ほら、俺とセックスするんだろ? 立てよ、泣いてんじゃねえよ」
怒ってる。そりゃそうだよな……泣いてんじゃねえって、優吾さんだって泣いてんじゃん。
俺は優吾さんに無理矢理立たされ、そのままテーブルに押し付けられる。あまりに力強く押されるからテーブルに当たった下腹部が痛かった。
「ほら、さっきみたいに尻突き出せよ。俺のせいじゃないんだよな? 全部公敬君が勝手にやったことなんだよな? いいよそれで、ほら……触らせろ」
パンっと乾いた音が部屋に響く。音の割に叩かれた尻は痛くなく、俺は自らそこを開き優吾さんの言う通りに腰を突き出した。乱暴な言葉とは裏腹に優吾さんの指は優しく俺の中に侵入してくる。ゆっくりと確かめるように触れてくれるのが嬉しくて気持ちよくて、勝手に腰が動いてしまった。
「あ……いい、そこ……優吾さん、もっと……もっと、お願い……」
やっぱり自分でするのとは訳が違う。背後で大好きな人の荒い息遣いを感じながら、これでもかと言うくらい掻き回される。いつもより念入りに優しく解してくれているのがわかり嬉しくてしょうがなく、早く奥まで突いて欲しくて堪らなかった。
「挿れるぞ……ケツ開け、俺によく見せろ」
俺の耳を軽く食みながら優吾さんは乱暴にそう言うと、勿体ぶるようにしてペニスの先で軽く突く。
「どうして欲しいんだ? 俺は何をしたらいいんだ? ……ん? 言ってみろよ」
意地悪く囁くもんだから、俺は堪らず自ら開き「挿れてください」と懇願した。
容赦なく優吾さんのが一気に奥まで突き挿れられる。ぐっとテーブルに腹が押し付けられそちらの痛みで思わず声が漏れた。
「あっ! あぁ……優吾さんっ! あ……ああっ、んっ」
優吾さんの激しい律動で、テーブルがずれてギッギッと嫌な音を立てている。そんなことも御構い無しに優吾さんは止まることなく俺の中を抉ってくる。久し振りの優吾さんの熱い滾りに俺は堪えることなく喘ぎ続けた。
本当なら、こんな背後からだけじゃなく優吾さんの顔を見て抱きしめられたい。前みたいに「愛してる」とか「好きだよ」とか囁いてもらいたい。俺はぐいぐいと押し付けてくる優吾さんを感じながらそんなことばかり考えてしまっていた。
終始優吾さんは俺の背後から激しく突くだけで、俺の顔を見ようともしなかった。勿論キスもしてくれない。ただただ快楽だけを求めるように一方的に俺の事を犯しているだけ。愛情も何も感じられなかった。
優吾さんとこうなる事をこんなに望んでいたのに……
せめて最後に抱かれたいとあんなに望んでいたのに……
涙が出るほど体は気持ちが良くて蕩けそうなのに、心はこんなにも悲しくて虚しいなんて思わなかった。
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