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73 興味がない

「お疲れ様です! はい、乾杯しましょ」  食事会と称した合コンに渋々ついてきた俺だったけど、結局のところ目の前に座る女二人はつい最近連れていかれた合コンの相手だった。はっきり言って名前すら覚えていない。  この店に着く前に秋吉から「俺とエマちゃんな、今いい感じなんだ」と謎の報告をされ思わず首を傾げると、今日一緒に食事をするのは前回の合コンの相手のうちの二人だと怒られてしまった。 「改めまして、エマちゃん、美桜(みお)ちゃん、久しぶり」 「乾杯!」  秋吉は俺が名前も覚えていないと察したのか、わざわざ名前を言いながら乾杯をする。俺は名前を言われても何となくしか思い出せず、それでもノリ良く一緒にグラスを合わせた。    確か前回の合コンは男女五人ずつくらいいて賑やかだった気がする。俺は秋吉に連れられて行っただけで、女はおろか秋吉以外の男も知らない顔だった。だから尚更、記憶が薄い。とりあえず目の前にいる二人は可愛いタイプで、秋吉の言うエマちゃんは好みドンピシャなんだろうと察しがついた。  ちょっとお洒落なレストランで食事を楽しむ。他愛ないお喋りをしながら食事を済ませ、まだ時間があるから近くのバーで飲み直そうと店を移動した。 「本当は私が無理言ってお願いしちゃったんだ」  歩きながら美桜ちゃんが俺の方を見てそう言った。自然とエマちゃんが秋吉と並んで歩き、美桜ちゃんと俺がその後ろをついて歩く。少し酔っ払っているのか、エマちゃんは秋吉の腕に掴まるようにして絶妙な距離感で並んで歩いていた。 「安田君とまた会いたいなって思って……」 「……ふうん、そうなんだ」  こういう時、何と言っていいのか困ってしまう。自分は美桜ちゃんには全く興味がないから「ありがとう」と言うのも違う気がするし、馬鹿正直に言葉を発しちゃいけないのは俺でもちゃんとわかっている。それでも好意を持ってくれてるのはわかるからやっぱり「ありがとう」と付け加え、そのまま黙って俺は歩いた。  二軒目のバーでは同じテーブルについたものの、すっかり秋吉とエマちゃんは意気投合した様子で、俺らの事などお構いなしに顔を寄せ合って二人だけで話し込んでいる。立ち飲みのバーなので、酒に強いわけではない俺は美桜ちゃんに気を遣い話題を振っているうちに段々と疲れて面倒臭くなってしまった。おまけにチラチラとこちらを見ている秋吉が「上手くやれよ」と言わんばかりにニヤついているから余計に苛立つ。苛立ちと面倒臭さを何とかするために酒が進んでしまい、悪循環に拍車が掛かった。  気付いた時には秋吉とエマちゃんはおらず、俺は美桜ちゃんと二人きりになっていた。 「あ……れ? 秋吉どうした?」 「やだあ。どうした? なんて言って、さっきバイバイしたじゃん。安田君、私のこと送ってくれるって……」  照れ臭そうに美桜ちゃんはそう言うけど、俺、そんなこと言ったけか? ぼんやりしちゃって全然記憶にない。送ってあげるだなんて、むしろ俺の方が酔っ払ってんじゃないのか? 心底面倒くさいけどどうしたもんかな……  顔を赤らめ俺にもたれるようにして立つ美桜ちゃんは「酔っ払っちゃった、ごめんね」と上目遣いで俺を見る。そんな風にされたところで俺には何も感じない。申し訳ないな……と思いながら、しょうがないから会計を済ませ店を出ることにした。  美桜ちゃんはきっと男女の関係になるのを期待している。  酔いが回ったせいで思考が大雑把になってしまった俺は、美桜ちゃんの期待に応えることはできないとはっきり言わなけばいけない。でも傷付けないようにしなくては……とも思ってしまった。そんなこと無理な話だ。好意を向けてきている相手を傷付けずに、はっきりと拒絶するなんて。気がないのなら関わることをせずあっさり送り届ければいいだけの話。それなのに俺は突き放すどころか美桜ちゃんの「家に行きたい」と言う要望にすんなりと頷いてしまい二人してタクシーに乗り込んでしまった。  バカじゃないのか?  俺はずっと昔に優吾さんに怒られたお酒の席での失敗を思い出していた。

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