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76 吐露
俺は美緒ちゃんに謝りながら、知らず知らずに目に涙が溜まってしまい動揺する。
……何故?
今更じわじわと優吾さんのことを思い出し、思考が悲しみに支配されていく。もう何ともなかったのに……忘れていたのに、まるで消化されてなかった思いが湧き出てくるように自分でもどうする事もできなかった。
「ご……ごめん、俺……今日ちょっと変だね。美桜ちゃんは悪くないんだ……ごめん、なんか色々思い出しちゃって」
こんな姿を晒してしまったからにはちゃんと話さないといけないと思い、俺は二人に正直に打ち明けた。
初めて好きになった人と同棲をしていた事。
それが上手くいかず別れてしまった事。
相手が自分ではない他の人と結婚してしまった事。
そして俺はゲイだから、美桜ちゃんの気持ちには答えられないという事……
二人は黙って俺の話を聞いてくれた。流石にゲイだと告白をしたら驚いた様子だったけど、エマちゃんには「言いにくい事を打ち明けてくれてありがとう」と言われ、泣かれてしまった。気の強そうな子だと思っていたから、「こんな事を言わせてしまってごめんなさい」と謝り泣くエマちゃんに、俺もつられるようにして一緒になって泣いてしまい恥ずかしかった。エマちゃんに秋吉が俺がゲイだということを知っているのかと聞かれたので、それはまだ話していないと伝えると口外はしないと言ってくれた。
「びっくりしたけど……話してくれてありがとうございます。スッキリ失恋できて……良かったです」
きっと美桜ちゃんは納得はしていない。それでも俺の事を気遣ってか、これ以上この話には触れずに、これからも友達として仲良くしていきましょう、というような話をして二人は帰っていった。
一人になって、改めて涙が出てくる。
何でもなかったはずなのに、何で急にこんなに悲しくなってしまったのだろう。公共の場で泣くなんてみっともない。それでも「寂しい」という感情に抗えず、俺はその場でしばらくの間涙していた。
ひとしきり泣いた後、何となく一人でいるのが寂しくて久し振りに橋本さんに連絡をした。返信が来なかったらそれでいい。少しだけ橋本さんからの返信を待ち、来なければすぐに帰ろうと思っていたけど意外にもすぐに橋本さんから返信が来た。
俺はカフェから出て、指定された店に向かった。
橋本さんと最後に会ったのはいつだっただろう。いまだに優吾さんと橋本さんの関係は詳しくは知らないけど、俺と優吾さんが一緒に住んでいた頃はちょくちょく遊びに来ていた。勿論別れてからはそれっきり。橋本さんは優吾さんとは今も変わらず交流があるのだろうと思うとちょっとだけ緊張する。
心のどこかで俺の事を優吾さんに話してくれればいいのに、とも思ってしまった。どうせ話したところで状況は変わらないのだけど。
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