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81 新しい出会い

「何? まだなんか用なの?」 「いやいやいや、昨日は公敬君の方から誘ってきたんでしょうよ」  仕事終わり、どういうわけか俺は今日もまた橋本さんと会っている。 「植え込みに鍵置いとけって、盗まれちゃって泥棒に入られたらどうすんのさ。貴重品なんだからちゃんと手渡ししないと心配だよ」  橋本さんの言うことも一理ある。俺は橋本さんに呼び出されまた昨日と同じ店で夕飯を食べている。言葉とは裏腹に、またしばらくは会うこともないと思っていたので正直こうやって誘ってもらえるのは嬉しかった。 「久しぶりに会ってさ、公敬君思ったより元気そうだし安心したけど、なにかとさ……本心で話せるような奴がいないとしんどいんじゃね?」  元々人付き合いは得意ではないけど、それなりに上手くやっていると思う。でも橋本さんが言わんとしている事はすぐにわかった。俺のセクシャリティも含めて話ができるような友人はいない。全て曝け出すまではしなくとも、会話の中で小さな嘘をついて誤魔化すような事をしないで済むのは目の前にいる橋本さんだけだった。 「もうさ、優吾のことも過去のことだって割り切れてんだろ? 俺にちょっかい出そうとしたのだって、寂しいからだよな。新しく恋人作れとは言わないけど、お仲間の友達作ったっていいんじゃないの? 新しい出会いも大事よ?」 「ちょっかいってなんだよ、そんなんじゃねえし。うん……でも、友達ね。俺そういうの苦手だからな……」 「はいはい、そうだね。まあ、参考までにさ、こういう所もあるから気が向いたら行ってみな」  怪しい店じゃないし、俺らみたいなゲイの客が多くて出会いの場にもなっているからと、橋本さんは店のカードを一枚、俺に手渡した。 「似たような店もそこら辺は結構点在してるから、開拓してみるのもいいかもな」  カジュアルな店だから気楽に行ってみなよ、とタバコの煙を斜に吐き出し小さく笑う。俺は渡されたカードを眺めながら、わずかに残っていたビールを飲み干した。 「ねえ、橋本さんは一緒に行ってくれないの?」 「は? やだよ。こういう所は俺は一人で楽しみたいの。それに知った奴いたら公敬君もやり辛いだろ?」  別にナンパするわけじゃなし……やり辛いって何がだよ、と突っ込みたくなったけど黙っておいた。  新しい出会い。  そりゃなんでも話せるような友人がいたら楽なんだろうな……とは思うけど、今更改めて「友達」を作ろうなんて、考えただけでも面倒だった。 「ありがとう。気が向いたら行ってみるよ。あ、橋本さんとかち合わないようにするから安心してね」  橋本さんとは気兼ねなく話が出来て、歳上なのもあるから結構頼りになる。ユーモアもあるし何より優しい。いっそのこと橋本さんが俺の恋人だったら……と頭を過ったけど、やっぱりこの人はこの人で浮気が心配だと想像し、俺は可笑しくなって笑ってしまった。

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